ある理学療法士のブログ

このブログではアフェリエイト広告を利用しています

膝前十字靭帯(ACL)損傷のリハビリテーションの進め方

はじめに

 私の勤めているクリニックはACL損傷の患者さんがたくさん来られます。また、近くに大学があり、学生さんは地元でOpeをする方も多いため全国各地の病院で前十字靭帯再建術を行った患者さんを診る機会をいただいています。

 そこで、今回はスポーツ外傷の代表格ともいうべき膝前十字靭帯(以下、ACL)損傷のリハビリテーションの進め方について書いていきたいと思います。

前十字靭帯の機能解剖

 ACLは大腿骨外顆後方から起こり、脛骨顆間結節の前方からやや内側に付着する靭帯である。ACLの全長は約30~35mm、横径は役10mmで2束もしくは3束からなる線維束で形成されている。

右膝関節前面 1)より引用

 機能的には前内側線維束と後外側線維束に分類されます。 前内側線維束と後外側線維束 の緊張する肢位は以下の通りです。

  • 前内側線維束(AMB):膝関節の全可動域で緊張し、特に屈曲位で緊張を増す
  • 後外側線維測(PLB):伸展位で緊張を増し、屈曲位で弛緩する

2)より引用

*ACL全体としては最大伸展時と90°屈曲時に張力が増すが、これは主にAMBに作用し、またその損傷も多い

前十字靭帯の役割

 ACLの主な役割は以下の3つです。

  1. 膝関節内旋の制動
  2. 下腿の前方移動の制動
  3. 膝関節過伸展の制動

前十字靭帯損傷の受傷肢位

 ACL損傷の受傷肢位としては膝の外反、つまりKnee inでの受傷が一番思い浮かべやすいですが、関東労災病院の今屋先生の著書によると受傷形態としては①外反損傷、➁内反損傷、③過伸展損傷、④正中屈曲損傷があるとされています。

外反損傷

 荷重位で膝関節を内側に捻って起こる損傷で、ACL損傷の中で最も多く約半数を占めます。

 タックルを外側から受けて損傷する場合や、内側に方向転換(カッティング)するときなど受傷形態がこれにあたります。

 この受傷肢位ではMCLや外側半月板の損傷を伴う可能性があります。

内反損傷

  荷重位で膝関節を外側に捻って起こる損傷です。膝関節屈曲・内反し大腿骨に対する脛骨の内旋を伴い、この時にACLが強く伸長されて損傷する。

 ジャンプの着地時や外側へ方向転換(クロスオーバーカッティング)するときなどの受傷形態がこれにあたります。

 この受傷肢位ではLCL損傷を伴う可能性があります。

過伸展損傷

 生理的な膝関節の可動域よりも過度に伸展した時に起こる損傷です。

 ACLが顆間窩に引っかかり引き伸ばされることにより損傷します。

 膝過伸展でのジャンプの着地時などにみられる受傷形態です。

正中屈曲損傷

 膝関節正中位で瞬間的に重心が後方へ移動したときに起こる損傷です。

 大腿四頭筋が強く収縮し、大腿骨に対して脛骨が前方へ引き出されることによってACLが損傷します。

 スキーのジャンプ後の着地時や急激にスピードが上がったときに瞬間的に体幹が後方へ移動した場合などにみられる受傷形態です。

受傷機転を知ることは大事

 ACLのリハビリを行っていくうえで受傷機転を把握しておくことは大変重要です。なぜならば、受傷形態の把握は再断裂の予防のためのヒントとなるからです。例えば、受傷形態が接触(contact)か非接触(noncontact)かを把握することでその患者さんが事故的な要素で怪我をしたのか、それとも身体特性の結果として怪我をしたのかが推測できます。この場合、後者のタイプの方が再受傷のリスクが高いと考えます。そのため、スポーツ復帰までの間に徹底して動き方の改善を把握していきます。また、受傷時の関節肢位はこの動きの改善を図っていくときの方向性を示してくれます。そのため、リハビリを行う前に必ず受傷形態を確認しましょう。

前十字靭帯(ACL)損傷術後のリハビリテーションについて詳しく書かれた数少ない書籍だと思います。関東労災病院ACL再建術の件数日本一を誇る病院だそうです。「これからACL損傷を診れるようになりたい」という方は必ず一度は目を通しておいた方がいいと思います

スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション 内山英司/監修 岩噌弘志/監修 園部俊晴/筆 今屋健/筆 勝木秀治/筆

前十字靭帯損傷の画像 

  ACLMRI画像です。

健常ACLMRI像 2)より引用

ACL損傷患者のMRI像 2)より引用

 矢印の部分にあるべきACLがありません。これは筑波大学新津先生の著書から引用させていただきましたが、こんなにきれいな像は当院のMRIでは見られません(泣)。診断はDr.の領域ですがPTもMRIぐらいはみれた方が良いと思います。

膝のMRI画像に特化した、膝を専門にみていきたいと思っている方には必読の書籍

膝MRI 第3版 [ 新津 守 ]

前十字靭帯再建術の方法

 ACL再建術における再建靭帯の素材については歴史的に様々な素材が用いられてきましたが、現在は主に半腱様筋腱・薄筋腱(STG)と骨付き膝蓋腱(BTB)が最も安定する素材だということが解り、このどちらかを用いた再建術を行っている施設が大半を占めています。

STGを用いたACL再建術

 術後成績が安定しているため本邦では最も多く行われている手術法です。術後の疼痛が少なく大腿四頭筋筋力の回復も早いという利点がありますが、STGの採取後では深い膝関節屈曲域の運動が困難になるという欠点があるといわれています。

BTBを用いたACL再建術

 STGを用いた手術法と比べ靭帯強度が強いという利点があります。また、骨と骨で固定できることにより術後早期の固定力にも優れています。しかし、 STGを用いた手術法と比べると膝関節前面の疼痛を訴える症例が多くリハビリを進める上でのボトルネックとなることがあります。また、その他にも術後の筋力回復が遅いことや伸展制限が生じやすいなどの欠点があります。

術後リハビリテーション実際

 当院では前述のとおり様々な病院からの紹介でリハビリを行っているため、原則は手術を行った病院のプロトコールに沿って進めています。そのため、ここでは具体的に何カ月で何を行うということは書くことができません。そくらい病院によってスケジュールは様々と思っていただけたらと思います

 ただ、それでは今回のブログタイトルと内容が一致しないためここでは私がリハビリを行っていくうえで注意していることを書きたいと思います。

術後3カ月までは要注意

 術後3カ月までは再断裂に特に注意が必要です。理由は、採取した腱の血行が遮断され最も弱くなる時期が大体3カ月と言われているからです。当院に送られてくるプロトコルをみても大体この時期は一致している(一部、驚くほど早いスケジュールのところもありますが)ように思います。

可動域訓練

 まず、ACL再建術後のリハビリを進めていくうえで気を付けていることは丁度よい硬さの膝を作ることです。今屋1)は関節の可動性と安定性は反比例の関係にあり、また、可動域と筋力は比例関係にあるとしています。つまり、拘縮を残すことを怖がるあまり術後早期からガンガン曲げていってしまうと靭帯にゆるみが出て不安定な膝になってしまう可能性があるということです。

 経験がまだあまりなかったころはここがすごく難しかったように思います。拘縮は絶対に作ってはいけないが術後早期の曲げすぎ・伸ばしすぎもダメ、という丁度良い塩梅を確立していくまでが大変でした。周囲にアドバイスをもらえる先輩もいませんでしたので...。この部分に関しては正直、経験がものを言うと思います。なので、周りに先輩がいる方は相談しながら進めていくのが最適解だと思います。

 具体的に術後の可動域訓練でまず気を付けていることは、早く膝の腫れをひかせることと術創のある膝蓋下脂肪体を柔らかくすること、術創部周囲の皮膚の可動性を改善させることです。良い手術が行われていることが前提ですが、この3つのポイントをクリアできれば最近はあまり可動域には困らないことが多いです(もちろん全症例というわけではないので、そういう症例に対してはその都度対応します)。 

 可動域の目安ですが3カ月までに屈曲130°HHD(Heel Height Difference)0.5F以下を目指します。その後4カ月で屈曲140°、5カ月で150°、6カ月で正座を目指しています。私は屈曲はやや遅めに進めています。理由は早く進めても動作の許可が追いつかないため不安定性を引き起こすリスクをあえてとる必要がないと考えているからです。それに、きちんと伸びる膝はほぼ曲がっていきます。ただし、私は経験上『この膝は問題なく曲がっていくな』とか『この膝はヤバいな』というのが大分分かるようになってきたので硬くなりそうな患者さんは少し早めに進めます。

こちらの記事に可動域訓練訓練について書いてます↓↓↓

【前十字靭帯術後の関節可動域訓練の進め方】

筋力レーニン

 筋力トレーニングはベット上でのSetting以外はほぼCKC中心で行っていきます。理由はCKCの方がOKCでのトレーニングより下腿前方への剪断力が小さく再建靭帯への負荷が少なくすむといわれているからです。また、手術を行った病院によってはOKCは禁止や6カ月までは禁止等のしばりがあります。

 3カ月までは自重でのスクワット(1/4~ハーフ)、レッグランジ、スケーティング、ニーベントウォーク(KBW)、エルゴメーターExなどを週に2~3回程度行っています。

 筋力の目標値は、術後6~8カ月までに大腿四頭筋の筋力が健側の80%以上です。また、基準となる健側の筋力値については今屋ら1)は男性で体重の2.5倍、女性で体重の2.3倍以上が競技者であれば必要であるとしています。研修会でこの数値を知った後、当院の患者さんの測定結果を見直しているとこの数値を超えていない患者さんが多くいらっしゃいました。今後の課題発見です。

 筋力トレーニングについては「前十字靭帯損傷術後の筋力トレーニングの進め方」で具体的な進め方を書いていますので是非読んでみて下さい。

アスレチックリハビリテーション

 術後3カ月以降は徐々に運動負荷を挙げながら競技復帰に向かいます。具体的には両脚ジャンプ、片脚ジャンプ、ジョグ→ランニング→ダッシュ、ストップ練習、ステップ練習(サイドステップ、クロスステップ等)、競技特有の動作練習などをプロトコルのスケジュールに沿って進めていきます。

 この中で一番難しいと感じるのは競技特有の動作練習です。当院にはアスレチックトレーナー(AT)が常駐してくれているため任せています。やはり餅は餅屋かなと感じます。ATが患者さんに対して行っているメニューを傍で見ていると勉強になります。また、患者さんのチームにトレーナーさんがいる場合は連携して進めていきます。

保存か手術か

 ここまで術後のリハビリの進め方を書いてきましたが、そもそも患者さんは手術をした方が良いかどうかでまず悩みます。特に競技レベル以下の患者さんに関しては普通に生活できるため迷われる方が多いです。様々な考えがあると思いますが、当院では余程のことがない限り手術を勧めています。理由は、ACLの切れた状態では膝OAへの進行リスクが切れていない場合の約4倍となるといわれているからです。また、膝の不安定性が増すため半月板損傷のリスクも高まるといわれています(半月板損傷がある場合の膝OAへの進行リスクは約7)。若年者の場合、現役を引退した後の人生を考えたときにこれは深刻な問題であると考えています。

 また、膝崩れ(giving way)が受傷後2回以上出た場合は手術適応であると考えています。

おわりに

 今回はスポーツ外傷の代表格であるACL損傷後のリハビリの進め方について書きました。ACL損傷の患者さんは集まるところには集まりますが、いないところにはほとんどいないというように思います。私も初めて診たときは『これでいいのかな?』などと悩みながら日々臨床に臨んでいたのを思い出します。はっきり言ってACL損傷は経験値がものをいうと思います。いくら書籍を読んでも(もちろん読んだ方がいいですが)、経験を重ねていかなくては診れるようになっていかないと思います。私の経験に基づいた今回の記事が読んでくださった方のお役に立てればと思います。

 今回の記事がもしお役に立てたらお知り合いの方にもシェアしていただけたら幸いです。

ACL損傷の患者さんはいるところにはたくさんいますがいないところには全くいません。これからスポーツ分野で活躍したいと思っている方は思い切って一歩踏み出してみてはいかがですか?

勇気を出して一歩踏み出した方の人生はきっと良い方に転がっていくと思います。

参考文献

1)スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション    今屋 健 他

2)膝MRI                           新津 守

スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション改訂版 [ 園部俊晴 ]

価格:6,820円
(2021/10/16 21:49時点)


膝MRI 第3版 [ 新津 守 ]

価格:6,600円
(2021/10/16 21:42時点)