ある理学療法士のブログ

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「神経モビライゼーション」の臨床活用

 前回の記事では「末梢神経のなぜ?がわかる機能解剖学」という研修を受けての学びについて書きました。今回はその末梢神経に対して私が実際に臨床で行っているアプローチについて書きたいと思います。

 

   

 

日常でよく経験するもの

 私が日常の臨床で注目している神経は以下の4つです(私は1日中ほぼ膝の患者さんしか診ていませんので)

  1. 伏在神経
  2. 坐骨神経
  3. 脛骨神経
  4. 総腓骨神経

「伏在神経」について

伏在神経とは、大腿神経から分岐した知覚枝で、縫工筋の深部を下行して内転筋管(内転筋結節から約7cm上方の辺り)を通過し、膝内側領域と下腿内側領域の感覚を支配する神経です。そのため、伏在神経が絞扼されるとその支配領域に感覚障害や痛みが生じることがあるとされています。

縫工筋の絞扼されやすい部位は

  • 内転筋管(Hunter管)

  • 縫工筋の筋腹

*内転筋管(Hunter管)は、内側広筋の後面でかつ大内転筋の前面に位置している(内側広筋と大内転筋が交わる部位にある広筋内転筋板のある位置)。

プロメテウス解剖学コアアトラスより

臨床ポイント

 伏在神経に関してはその支配領域である膝内側から下腿内側近位に痛みや感覚障害が起こっている場合に着目します。また、伏在神経の膝蓋下枝が膝蓋下脂肪体へ入っているため伏在神経へアプローチすることによって膝蓋下脂肪体の痛みが緩和する症例がいます。膝蓋下脂肪体は変形性膝関節症患者さんの痛みの原因となることが多い箇所なので理学療法アプローチとしてはもちろん、ホームエクササイズとしても指導しています。

 具体的アプローチ方法としては上記の内転筋管周囲と縫工筋を徒手でマッサージしています。

坐骨神経・脛骨神経・総腓骨神経

 この3つは同じ流れの神経です。患者さんに良く説明するのですが大きな川(坐骨神経)が膝裏で支流(脛骨神経、総腓骨神経)に分かれていくイメージです。

坐骨神経

 坐骨神経とは第4腰椎から第3仙骨の脊髄神経の腹側枝から形成される仙骨神経叢の上部の延長にであり、体内で最も大きな神経です。梨状筋の深部で下方に走り、坐骨の後方で大腿四頭筋の神経を横切ります。この梨状筋の深部で絞扼されることが多いといわれています(梨状筋症候群)。また、坐骨神経は股関節枝を出し、大腿二頭筋、半腱様筋、半膜様筋、大内転筋の坐骨頭への筋枝を持ちます。

プロメテウス解剖学コアアトラスより

脛骨神経

 脛骨神経は膝窩部の少し上で坐骨神経から分かれて膝窩から下腿深部を通って外側足底神経と内側足底神経に分かれます。足の足底筋(下腿三頭筋、後脛骨筋、長趾屈筋、長母趾屈筋)を支配します。また、下腿後面の皮膚感覚を担う腓腹神経を出します。

プロメテウス解剖学コアアトラスより

総腓骨神経

 総腓骨神経は膝窩部の少し上で坐骨神経から分かれて外側腓腹神経を出した後に、膝の後面から腓骨頭の外側を回り、線腓骨神経と深腓骨神経に分かれます。これらは足の外反に働く筋肉(長・短腓骨筋)や背屈に働く筋肉(前脛骨筋、長趾伸筋、長母趾伸筋)を支配するため、神経障害により下垂足をきたします。

プロメテウス解剖学コアアトラスより

 

プロメテウス解剖学コアアトラスより

臨床のポイント

 まず、坐骨神経については臀部から大腿後面にかけて痛みがある場合に着目します。また、脛骨神経に関しては膝窩部に痛みを訴えている場合、総腓骨神経に関しては膝の後外側から外側にかけて痛みを訴える場合にその関与を疑います。

 特に、膝窩部の痛みに関しては私自身これまで治療に難渋していました。しかし、神経に着目してアプローチするようになってから膝窩部の痛みがかなり多くの症例で改善するようになりました(もちろん、すべてが神経由来というわけではないのでしっかり鑑別していくことは必要ですが)。また、ちょっと不思議なのですが、脛骨神経の滑走アプローチを行うと膝の屈曲角度も改善します。

 具体的アプローチ方法としては前回紹介した工藤先生の研修でも紹介されていた神経モビライゼーションを行っています。イメージとしては他動的にSLRの体勢を作って患者さんに足関節を底背屈してもらうような感じです。バトラー神経モビライゼーションという本は少し難しくて読みにくい本ですが一読の価値はあると思います。

 

まとめ

 今回は前回記事にした『「末梢神経のなぜ?がわかる機能解剖学」という研修を受けて』という内容から、最近の臨床場面で私がどのようにその考えを用いているかについて書いてみました。もし前回の記事をまだ読んでいない方がいらっしゃったら読んでみてください。

 

docdamitaro.hatenablog.com

 

 

【参考文献】

プロメテウス解剖学コアアトラス第3版  医学書

 

 

 

研修:末梢神経の「なぜ?」がわかる機能解剖学

神経イメージ

今回の学び

  • 神経モビライゼーションは効果あり
  • 神経の神経=Nervi Nervorum

はじめに

 先日、森ノ宮医療大学工藤慎太郎先生の『末梢神経の「なぜ?」がわかる機能解剖学』というテーマの講演をオンデマンドで視聴した。最近、エコーの研修などで「痛みを神経で考える必要がある」と話されているDr.をお見かけします。「痛みを神経で考える」とはどういうことか?そう思っているときに本研修を知り今回の受講に至りました。

 今回の研修で私なりに学びとなったと感じたことは以下の2点です。

 

神経モビライゼーションは効果あり

 私はかれこれ20年近く前に「神経モビライゼーション」という研修を何日間かにかけて受講した。受講はしたものの受講当時も、またその後20年近くも「神経モビライゼーション」が何に効いてどのような場合に用いるのかということが解らずにいました。

 実は、今回の研修でも「神経モビライゼーション」について触れてありました。それによると「神経モビライゼーション」に関する論文数が2013年までは非常に少なく2014年以降急激に増えてきているとのことでした。講師の工藤先生は論文数の増加にエコーの普及が関与しているのではないかと述べられていました。

 本研修においてはこの「神経モビライゼーション」の効果について多分に触れられており、モビライゼーションの方法による滑走距離の違いやモビライゼーションの効果の持続性などについて研究データに基づいてお話しされていました。

 具体的に

  • 神経が関連した腰痛と頸部痛に関しては神経モビライゼーションは有効である
  • 手根管症候群に関しては神経モビライゼーションの効果があるとは言えない
  • 神経モビライゼーションの手技、施行時間による違いは不明である
  • 神経内の腫脹が改善することも報告されている

等は臨床を進める上で参考になるなと感じました。

 

神経の神経=Nervi Nervorum

 末梢神経自体が痛みを発しうる。今回の研修ではこの点についても触れられていました。これには「Nervi Nervorum」というものが関与しているようだとのことでした。

 みなさんは「Nervi Nervorum」というものをご存じでしょうか?(恥ずかしながら私は知りませんでした・・・)

Nervi Nervorumとは神経周膜と上膜に神経線維から分枝しているもので、その分枝した末端には受容器があるとされています。また、神経幹外からは血管と血管周囲神経叢が神経幹の周膜と上膜に入り組んでおり、こうした「Nervi Nervorum」に関わるシステム構造が神経幹を圧迫すると神経因性疼痛が起こる根拠とされています。

 絞扼部位で神経が圧迫されることで神経上膜や周膜が損傷し、結合組織に入り込んでいる血管周囲神経叢の炎症が起こる。そしてこの炎症反応がNervi Nervorumの侵害受容器を興奮させ、これが神経因性疼痛の原因となっているのではないかと言われています。ただし、「Nervi Nervorum」の役割はまだはっきり分かっていない部分もあるようです。

 

結語

 今回は先日受講した工藤慎太郎先生の『末梢神経の「なぜ?」がわかる機能解剖学』という研修会の中で特に私が「勉強になったな~。」と感じたことについてまとめました。『痛みを神経で考える』、この観点で見ると臨床の中で症状はとれたけどなぜ良くなったか分からなかったことにも合点がいき、次回からは明確に狙いをもって理学療法に臨めるのではないかと思います。

 

P.S 今回の研修はオンデマンドで受講しました。実は、リアルタイムでの開催時から気になっていたのですが、オンデマンドの方が期間中複数回視聴することも可能でより理解が進むのではないかと考えオンデマンド開催まで待ってました。実際、今回も期間中に3回頭から終わりまで観ました。主催者の方々、権利の問題などいろいろあるのでしょうが是非オンデマンドによる研修を増やしていただけたらと思いますm(__)m

 

参考

CHIRO-JOURNAL.COM

痛み学NOTE<第27回>Nervi Nervorum(神経の神経)は、どんな役割を演じるのだろ?

 

前十字靭帯術後の関節可動域訓練の進め方

はじめに 

 前十字靭帯の術後に限らず、運動器術後のリハビリテーションにおいて可動域の獲得が重要なことは言うまでもありません。しかし、靭帯損傷に対する再建術後の可動域訓練の進め方は非常に繊細で経験測によるところが大きい気がします。

 そこで、今回は膝前十字靭帯損傷に対する手術件数が日本一である関東労災病院の今屋 健先生の著書からそのコツを学んでみたいと思います。

前十字靭帯損傷術後の関節可動域訓練は難しい

別の記事

膝前十字靭帯(ACL)損傷のリハビリテーションの進め方 - docdamitaro’s blog

でも書きましたが前十字靭帯再建術後の関節可動域訓練の進め方は非常に難しいです。骨折後の関節可動域はとにかく固さをとって可動域の改善を図ることに全力を尽くせばよいのですが、前十字靭帯再建術後の場合はあまり早く進めすぎるとゆるみの原因となってしまう場合があるため(最近は早く可動域を獲得しても大丈夫といわれているみたいですが。。。)術後期間や患者さんの個体差に気をつけてリハビリを進めていく必要があります。

 かくいう私もまだ経験が浅いときにはゆるみが出ないように用心しすぎて固さが残ってしまったりといった苦い経験があります。とにかく、可動域訓練を行っていてもこれで良いのか?という手応えというか確信みたいなものが乏しくていつも恐々行っていたのを今でも覚えています。

 たくさんの症例を経験した今ならばある程度これまでの症例と比較することで『手応えやこれで良いという確信』をもって可動域訓練を進めていくことができますが、やはり経験が浅い段階では難しいと思います。

可動性と安定性は反比例

 前十字靭帯再建術後の可動域訓練を進めていくうえで非常に大切な考え方があります。

 それは、『関節の可動性と安定性は反比例の関係にある』

ということです。これは前出の今屋先生が著書の中で述べられている考え方でが、可動性の高い膝は運動性は高いが安定性が低く、逆に可動性の低い膝は運動性が低くなる一方で安定性は高くなるということです。

 ということは、目の前の患者さんにとって運動性がより求められるのか、それとも安定性を重要視すべきなのかを判断しつつちょうど良い塩梅で可動域訓練を進めていくことが可能であり、同時に理学療法士にはそれをできる能力が求められるということだと思っています。

ジョイントプレイと過伸展

 この可動性と安定性のバランスを考えながら可動域訓練を進めていくというのが非常に難しくどうしても経験が必要になると思います。しかし、今屋先生はこれを『健側膝のジョイントプレイと過伸展』の関係から術側膝が術後、どのくらい固くなりやすいかを予測しその進め方を言語化しています。

 これってすごいことだと思うんです。

 このブログを読んでいただいている方の中で前十字靭帯再建術後の患者さんを日頃から診ている方でも、患者さんを目の前にして触ったら分かるけどなぜそう思うかはっきり言えない方、いませんか?

 恥ずかしながら私はそういう感じです。前十字靭帯再建術後に限らず、他の疾患でもそんな感じなんです。。。(*ノωノ)

 今屋先生は膝関節のジョイントプレイを『各々の症例が有する生理的な膝関節の遊びの大きさのこと』と定義し、このジョイントプレイと膝の過伸展の関係性から予後予測を行っています。

 詳しくは是非今屋先生の書籍を読んでみてほしいのですが、『過伸展があり、ジョイントプレイが小さい膝は術後に伸展制限を起こす可能性が高く』、一方『過伸展の有無にかかわらずジョイントプレイ大きい膝の場合、屈曲、伸展ともに可動域の獲得は比較的容易である』と述べられています。

 つまり、『過伸展+ジョイントプレイ小』の場合は少し強めに可動域訓練を進めていき、『過伸展の有無にかかわらずジョイントプレイが大』の場合には積極的に訓練は進めていかずに角度の確認する程度に収めておくということです。

 実際に、私の患者さんの中でも可動域の獲得にすごく苦労する症例もいれば、本当に何にもしなくても良くなっていく症例もいます。『なるほど、それってこういうことなんだなー』と本書を読んだ後に改めて思いました。

まとめ

 今回は前十字靭帯再建術後の関節可動域訓練を進めていくうえで有益なガイドとして用いることができる考え方を紹介させていただきました。

 私はよく前十字靭帯再建術後のリハビリについて参考書を探すのですが、なかなか良い本が見つからず、そもそも前十字靭帯再建術後のリハビリについてしっかり書かれている書籍自体が少ないんですよね。

 そんな中、今回参考にさせていただいた『改定第3版 スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション』は前十字靭帯損傷後の手術法、可動域、筋力についてかなりボリューミーに書かれてあり非常に勉強になりました。

 正直、私は今回まとめた『ジョイントプレイと過伸展の関係、そこから術後の可動域制限を予測する』という部分だけでも書籍の値段分の価値があると思いました。これから前十字靭帯再建術後の患者さんを診たいもしくは診なければならないという方には必読の一冊だと思います。

 最後までブログを読んでいただいてありがとうございました。今回の記事が少しでもどなたかの助けになったら幸いです。

参考文献

 改定第3版 スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション   P270-281               著者:園部 俊晴・今屋 健・勝木秀治   運動と医学の出版社

『図解 眠れなくなるほど面白い脂質の話』まとめ 

はじめに

 今回のは麻布大学生命・環境科学部教授 守口 徹 先生監修の『図解 眠れなくなるほど面白い脂質の話』という書籍のまとめを書きたいと思います。

監修者紹介

 監修者である 守口 徹 先生は麻布大学 生命・環境科学部教授。1982年、横浜市立大学を卒業後、製薬会社の薬理部門に勤務。国立がんセンター研究所、東京大学薬学部に出向後同大学で博士号を取得。1997年、客員研究員として米国国立衛生研究所脂肪酸と脳機能に関して研究。2020年3月からは日本脂質栄養学会の理事長も務める。

脂質

 ダイエットや健康を考えると「油は控えるべき」というイメージがあるが、脂質は我々の体を動かすエネルギーになるほか、我々の体内に37兆個もある細胞の膜を作っているものであり、油(=脂質)は生きていくために必ず摂らなければならないものである。

脂質を構成する脂肪酸

 脂質とは一般的には中性脂肪のことを指すが、これはグリセロールという物質に脂肪酸が3つ結合した構成をしている。この脂肪酸は4種類に大別され、固まりやすさや栄養面などそれぞれ特徴が異なる。つまり、その油脂がどのような脂肪酸で構成されているかが油脂の特徴を決定づけている。

 脂肪酸は分子構造としては炭素、酸素、水素の3種類の原子からなる。炭素が数珠のようにつながり、その周りを水素が取り囲むような形をしている。この炭素のつながる数が脂肪酸によって違い、それが特徴の違いとなって現れる。

 この時、炭素のつながる数が少ないものは『短鎖脂肪酸』、中くらいのものは『中鎖脂肪酸』、多いものは『長鎖脂肪酸』という。脂肪酸は炭素の数が少ないほど代謝しやすいという特徴があり、中鎖脂肪酸は炭素の数が比較的少ない点で『燃えやすい脂肪酸』として注目されている。

飽和脂肪酸不飽和脂肪酸

 脂肪酸の種類は大きく分けると飽和脂肪酸不飽和脂肪酸の2種類に分けられる。

 飽和脂肪酸  → 分子構造がしっかりしていて油脂として固い。常温で固体

 不飽和脂肪酸 → 分子構造が弱くて粘性が低い。常温で液体

脂肪酸の種類

 常温で固体の脂に多く含まれる飽和脂肪酸。ココナッツオイルやパームオイル等植物性の脂の主成分であるラウリン酸やミリスチン酸、特にラウリン酸は消化に良い中鎖脂肪酸として注目されている。一方、牛脂やラードに含まれるパルミチン酸やステアリン酸は体に溜まりやすい長鎖脂肪酸で、摂り過ぎると動脈硬化などのリスクを高める。

 次に、油に含まれる不飽和脂肪酸のうち、体内でも作れる一価不飽和脂肪酸。この一価不飽和脂肪酸の代表的なものはオリーブオイルの主成分であるオレイン酸である。オレイン酸は酸化しにくく、熱にも強く、扱いやすいのが長所だが、摂り過ぎると肥満につながる。

 そして、不飽和脂肪酸のうち、体内で作ることができない多価不飽和脂肪酸。最も身近なものに多くのサラダ油に含まれるリノール酸があります。ただ、この脂肪酸は大豆や小麦、米などにも含まれており、無意識に摂り過ぎている可能性がある。一方、『健康に良い』とよく言われるEPADHAは魚をあまり食べなくなった現代人には不足しがちな脂肪酸であるため意識してとるべきである。

太りやすい脂質、太りにくい脂質

 常温で固体の脂は体内でも固まって蓄積しやすいため太りやすく、常温で液体の油は体内でもサラサラでエネルギーとして消費されやすいため太りにくい。例えば、肉の脂身を多く食べれば脂質の量が控えめでも太りやすいし、その分をEPADHAの豊富な魚油に変えれば太りにくくなる。

オメガ○

 『オメガ~系』とは不飽和脂肪酸を特徴の違いから種類分けした呼び名である。同じ不飽和脂肪酸でも『系』ごとにからだへの作用が異なる。

 基本的にはオメガ3系、6系、9系の3つに分けられる。

 このうち重要なのが、多価不飽和脂肪酸が『オメガ3系』と『オメガ6系』に分かれることである。この両者は『オメガ3系は細胞膜を柔らかくしオメガ6系は固くする』という相反する働きを持ち、どちらかに偏ると細胞膜のバランスが崩れてしまう。

 問題は、世の中にはオメガ3系に比べてオメガ6系を含む油が圧倒的に多く、オメガ6系に偏った食生活になっていることである。そのため、最近ではオメガ3系を摂れる魚油やえごま油が体に良いと言われる理由である。

 一方、中立的な立場なのがオメガ9系である。このオメガ9系は必須脂肪酸ではないため積極的に摂る必要はないが、オメガ6系の摂り過ぎを防ぐための代用となるものである。

精神機能への油の影響

 近年増加しているうつや認知症を含む精神機能の不安な状態を引き起こす要因の一つが『脳の油不足』だと言われている。あまり知られていないが、人間の脳はその約65%が脂質でできており、脳が必要とする油を摂ることは正常な脳の働きには欠かせない。

 しかし、日本人の食生活が変わってしまったことによりオメガ6系脂肪酸の摂取量が激増している。一方、魚介類に多く含まれるオメガ3系脂肪酸の摂取量が減り、脂肪酸のバランスが崩れている。そのことが脳の正常な機能を妨げ、精神的な不安定さや気分障害を引き起こす一因となっている。

アレルギーに関与する油

 リノール酸を含む油は、花粉症やアトピー、喘息といったアレルギー性疾患の症状を悪化させたり、アレルギー反応を加速させたりと全くいいところがない。一方で、アレルギー症状の緩和に効果がある油も見つかっている。それがえごま油やアマニ油などの『オメガ3系脂肪酸』である。

トランス脂肪酸

 不飽和脂肪酸には『シス型』『トランス型』の2種類があり、前者は天然の油、後者は何らかの加工が加えられた人工油脂に多いと言われている。この『何らかの加工』というのが問題で、多くの場合、常温では液体の植物油脂を化学処理によって固体化、さらに酸化しにくい(消費期限が長い)性質に変化させる。そして、その過程で多量のトランス脂肪酸が発生する。

 このトランス脂肪酸は摂取すると主に心臓に蓄積され、心臓病や糖尿病などのリスクを高めるといわれている。すでに米国では食品への使用が全面禁止となっており、日本でもその危険性を注視しておくべきである。

話題の油①えごま油

 オメガ3系脂肪酸を摂取するのに最も理想的なオイルが『えごま油』である。

 えごま油が健康に良いといわれる大きな理由の一つが、花粉症やアトピー等のアレルギー反応の抑制、動脈硬化心筋梗塞脳卒中などの生活習慣用のリスク低減が期待できる『α-リノレン酸』が豊富に含まれていることが挙げられる。この『α-リノレン酸』が体内でEPADHAに変わり、エイコサノイドやドコサノイドという生理活性物質を産生する。この物質は血圧を低下させたり、血管を拡張させる作用を持つため、全身の血流を促すことから、多くの体に良い効果を生み出す。

 注意として、えごま油は加熱調理には適さないため卵かけご飯やみそ汁、納豆にかけたり、ドレッシングのベースにするなどの食べ方が適している。

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話題の油➁アマニ油

 織物のリネンの原材料となる亜麻の種子を、その栄養分を損なわないように低温圧搾で抽出された油。えごま油とほぼ同等の脂肪酸組成比率で、『α-リノレン酸』が55%以上と高濃度で含有されており、その他にオレイン酸リノール酸もえごま油とほぼ同程度含まれる。

 えごま油と同様に酸化が進みやすいため、遮光瓶に入れ冷蔵庫で保管する

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話題の油③サチャインチオイル

 ペルーのアマゾン熱帯雨林地域が原産で、その原材料となるサチャインチの種子を低温圧搾して油を抽出している。近年になって栄養成分が豊富にあることが知られるようになり、15年ほど前から食用油として利用されるようになった。このサチャインチオイルにも『α-リノレン酸が豊富に含まれたオメガ3系脂肪酸の油である。

 栄養面における特徴は、植物油の中でもヒスタミンEの含有量が極めて高いこと。このヒスタミンEは血流促進作用があり、身体の冷えや肩こりに有用なだけではなく、抗酸化作用もあるため、体内の新陳代謝を促し、肌の健康を保つのに高い効果が期待できる。

 サチャインチオイルはオメガ3系脂肪酸の油の中では比較的加熱調理に強いため、短時間の炒め物などに利用することも可能である。

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話題の油④MCTオイル

 ココナッツやパームの種子に含まれる天然成分の中鎖脂肪酸を抽出し、100%中鎖脂肪酸だけで構成された油をMCTオイルと呼ぶ。

 この中鎖脂肪酸は小さい形の油であるため、他の油とは異なり、消化の際に酵素を必要としない。そのため、直接肝臓に運ばれ、そのままエネルギーとして使われる。一般的な油の長鎖脂肪酸と比較した場合、4~5倍ほどエネルギー効率が高いことが大きな特徴である。

 このように、早くエネルギーに変わるという特性から『身体に残りにくい油』として注目され、特に授乳やトレーニングの前など、すぐにエネルギーを必要とする場合に有用な油といえる。しかし、あくまで『身体に残りにくい』だけで、決して『やせる油』ではないので過度な期待をして普段の食生活に過剰に取り入れるのはおすすめできない。

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おわりに

 運動効果を高めるためには栄養面の知識は必要不可欠だと思います。しかし、栄養の勉強をすると内容が難しくてど~しても眠くなってしまう。。。ところが、今回まとめを書いた 守口 徹 先生の『図解 眠れなくなるほど面白い脂質の話』は脂質について分かりやすく書いてあり、しかも非常に読みやすい。栄養学関連の本で初めて眠くならずに最後まで読めた本でした。

 今回のテーマである脂質は多くの方にとって特に興味のある栄養素なのではないかと思います。そんな脂質について分かりやすく、しかも読みやすく書いてある本書は私のように栄養の勉強をしたいが実際に始めると眠くなるという方にはぜひお薦めです。

参考文献

図解 眠れなくなるほど面白い脂質の話    守口 徹 監修   日本文芸社

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膝内側側副靭帯損傷後のリハビリテーション

はじめに

 最近、なぜか私の勤務しているクリニックに膝の内側側副靭帯(MCL)の患者さんがたくさん来られています。そこで、自分の勉強の意味もこめて今回は膝の内側側副靭帯損傷後のリハビリテーションの進め方について書いていきたいと思います。

解剖・生理

  内側側副靭帯(MCL)は浅層と深層に分けられる。

 浅層は前縦走線維(anterior oblique ligament:AOL)と後方を通る後斜靭帯(post oblique ligament:POL)とに分かれる。浅層は大腿骨内側上顆から起こり、遠位部では鵞足の深部を通過し脛骨内側顆の内側縁と後縁に幅広く停止する。長さは約9cmの靭帯で膝関節内側の裂隙から7cm遠位まで付着する。

 AOLは60°以上の屈曲位で緊張し、特に10°以上の伸展と100°以上の屈曲位で緊張が増加する。

 POLは内側半月板や半膜様筋とも線維性に連結し、前方・後方動的安定性を高める。このPOL・内側半月板・半膜様筋の関係は半膜様筋の収縮によりPOLと内側半月板を引き出す機構に深く関連している。

 深層線維は、内側関節包靭帯とも呼ばれ、内側半月板の中節に強く結合するとともに、脛骨関節面の直下に停止する。大腿骨側は、半月大腿靭帯、脛骨側は半月脛骨靭帯となる。

 内側側副靭帯は下腿の外反と外旋を制動し、膝関節5°屈曲位ではMCLが役57%の制動を担い、膝25°屈曲では役78%の制動を担うと言われている。そして、それに加えてMCLは走行上前方引き出しの制動にも補助的に関与する。また、POLは線維長が短く関節包と密に連携しており、膝伸展位での膝関節の内旋の制動にも関与する。

ここまでは主にこの書籍を参考にしました

膝関節拘縮の評価と運動療法 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ) [ 林典雄 ]

重症度

Ⅰ度

  • 小範囲の線維の損傷で膝関節の不安定性を認めない
  • 損傷部の圧痛はあっても外反不安定性のないもの

Ⅱ度

  • 軽度から中等度の膝関節の不安定性を認める
  • 外反ストレステストにおいて膝屈曲20°~30°でのみ不安定性を認めるもの

Ⅲ度

  • 靭帯組織が完全断裂した状態
  • 強い痛みを呈し、外反ストレステストにおいて膝伸展位でも外反不安定性が認められるもの
  • ACL損傷の合併も疑う

固定期間

 Ⅰ度損傷であれば固定なしかもしくは弾性包帯での固定や膝外反及び外旋を制動するテーピングを2~3週間行う。

 次にⅡ度損傷の場合、2週間程度ギプスシーネや膝装具で伸展固定を行う。その後MCL用装具による固定を2~3ヵ月行う。

 最後にⅢ度損傷の場合はⅡ度損傷に準じる。ただし、膝装具は不安定性の状態に応じて装着期間が異なるため医師へ確認する。不安定性が強い場合はOPE適応となる。

リハビリテーション

メディカルリハビリテーション

 安静期間が過ぎて回復期に入ったら、組織の修復およびリモデリングがみられる時期に適度な力学的負荷を加えながら機能回復を促進することが重要です

 メディカルリハビリテーション期における目標は他の外傷後のリハビリテーションと同じく正常可動域(ROM)の獲得と筋力の回復を図り、ADL動作を正常化させることです。スポーツ分野のリハビリテーションであってもまずはADL動作の獲得が重要であり、ADL動作の獲得ができていない状態でスポーツを語るのは全くナンセンスだと思います。

 ROM ExについてはHeel SlideによるROM Exを中心に進めますが、その時のポイントは膝が外反・外旋しないように誘導することです。膝の外反については容易に想像がつくと思いますが、上述したMCLの解剖学的位置関係から考えても外旋に注意が必要です。また、筋力トレーニングにおいても同様で膝の肢位に注意します。ちなみに、この時期の筋力トレーニングはQ-Setting、SLR、端坐位でのレッグエクステンション(痛みに注意しながら)や股関節周囲筋の筋トレ等を行います。

 この時期のROMは靭帯のゆるみ防止のため屈曲120°~130°までを目安に行っている。伸展に関しては痛みの具合をみながらHHD0F(過伸展に注意)を目指します。

 その他のトレーニングとしては鏡の前で足踏み練習を行いできるだけ早期に正常歩行の獲得を図ります。

アスレティックリハビリテーション

 ROMと筋力が回復し、正常歩行を獲得したらアスレティックリハビリテーションへ移行します。当院では受傷後6週~8週以降を目安に進めています。

 この時期のROMでは徐々に120~130°以上の深屈曲を目指す。痛みに対する防御性の収縮等を考慮してできる限り患者さんによるHeel Slideを中心に進めるが、上手く進まない時はPassiveで行う。この時、下腿の内旋を誘導しながら行うことと痛みを残存させない範囲で行っていくことがポイントです。

 余談ですが、よく患者さんに「どのくらいの痛みまではやっても大丈夫ですか?」と聞かれますが、私は「痛みが荷重(やるたびに段々強くなっていく)しない、やった後に痛みが残らない、安静時痛が出ない、やった後に腫れぼったく感じない範囲で行ってください」と伝えています。

 筋力トレーニングについては別の記事に書いた前十字靭帯損傷術後の筋力トレーニング(CKC)の進め方という記事の中で書いているトレーニング内容に準じて行っています。

 スプリットスクワットやレッグランジ、片脚スクワットで膝の不安定性やKnee inしないような動作の獲得ができたら両足ジャンプ、片脚ジャンプ、ジョグ、ランニングへ進めていきます。また、直線でのランニングが全力で行えるようになったがサイドステップやジグザグ走行、方向転換練習(カッティングへ向けて)などを行っていきます。

 全ての動きで不安定性、不安定感(主観)、痛みがなくなってきたらスポーツ現場でのトレーニングへと進めていきます。現場でのトレーニングは非対人のものから始め、オフェンス→ディフェンスの順に進めていきます。

 スポーツ復帰の基準判定には様々なテストが提唱されていますが、単独のテストで復帰の可否を判断することは困難です。そのため体幹筋力や柔軟性、ROM、バランス能力などを総合的に判断でき、再現性のあるものが使いやすいと思います。

おわりに

 今回は自分の復習の目的で膝の内側側副靭帯(MCL)損傷のリハビリテーションについて書きました。前十字靭帯損傷のリハビリもそうなんですが、靭帯損傷のリハビリテーションは「これで良いのか」という手ごたえを感じにくい感じがします。特に保存の場合はいつから深屈曲OKなのか、いつから運動強度を上げていってよいか、などがちょっと「ふわっと」した感じがして若いときはちょっと苦手でした。

 今回の記事が現在、昔の私と同じように感じている方のお役に立てれば幸いです。



新しい一歩を踏み出してみましょう!

参考文献

1)膝関節拘縮の評価と運動療法      橋本 貴幸 著      運動と医学の出版社

2)膝のスポーツリハビリテーション    大内 洋  著       日本医事新報社

3)スポーツ障害のリハビリテーション   武藤 芳照  著     金原出版株式会社

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ウォーキングは良い運動か?

はじめに

 みなさんは患者さんに「最近、筋力をつけるためにウォーキングをやってます!(^^)!」ということを言われたことはありますか?私は結構頻繁に言われます。最近はそうでもないですが、数年前まではウォーキング最強説的な雰囲気が世の中にあったような気がしていて、あちこちの病院で患者さんが「とにかく歩きなさい」と指導を受けたと言っていました。

 でも、私はPTとしてウォーキングって実際どの程度運動になっているか疑問がありました。

 そこで、今回はウォーキングが実際体にどのような効果をもたらしているのかについて書いてみたいと思います。

「歩く」とは

 歩行は「姿勢の安定を維持しながら下肢運動を何度も繰り返すことにより同時に身体を前進させる運動である」。また、歩行は「随意的要素と反射的要素が加わり、バランスを失って再び元に戻る現象である」と定義することができます。

ウォーキングの効果

 ウォーキングには以下のような効果が期待できます。

  • 心肺機能が向上する
  • 血管を丈夫にする
  • 骨を丈夫にする
  • 生活習慣病を予防する
  • 脳を活性化する
  • 疲れにくい体を作る
  • 下肢や腰の筋力が強化される
  • ストレスを解消する

ウォーキングと下肢筋力

ウォーキングで下肢筋力は向上するのか?

 ウォーキングで得られる効果の中に「下肢や腰の筋力が強化される」という項目が入っていますが、この点について私は疑問があります。

 村田ら1)や新井2)の研究によると6m歩行距離や最大10m歩行速度などにはウォーキングによる効果がみられるものの、共に下肢筋力には有意な影響は得られなかったとされています。また、その他の論文を検索した結果も歩幅や歩行速度には影響が見られたものの下肢筋力に効果があるとされているものはほとんどみられませんでした。

 これはなぜでしょうか?

 それは、歩行が『効率的運動』であり、筋力トレーニングを目的とする時『非効率的運動』だからです。

 これはどういうことか?

 つまり、筋力を強くするためには負荷が必要ですが歩行は低負荷であるため筋力を強くするのには向いてないということです。なぜならば、人間は生物である以上エネルギーをできるだけ使わないように生きています。無駄なエネルギーをジャンジャン使っていたら早死にしてしまいますから。近くの店に歩いて買い物に行ったら人がばたばた・・・。なんてことになってしまうかもしれません。でも、実際はそうはなっていません。それは歩行が省エネで行えるようプログラムされた自動運動となっているからです。

 このような理由から歩行は下肢筋力を強くするための運動には向いていないと思うのです。

下肢筋力に有意な効果はみられない

 ウォーキングが身体機能にどのような影響を及ぼすかについて書かれた複数の論文で「最大努力での10m歩行速度や6分間歩行距離は改善するものの、下肢筋力やバランス能力には有意な変化はみられなかった」とされています。

 ちなみに、これらの論文ではウォーキングによって改善がみられる他の項目には「主観的健康観」や「生活満足度」、「生きがい感」、「人間関係に対する満足度」などに有意な改善がみられたと報告されてました。

 この他にもいくつか論文を検索したのですが、そのうちの多くが心理的面に関するものでした。

 これらのことより、ウォーキングの効果として下肢筋力の向上はあまり期待できないのではないかと思います。

ウォーキングで筋力を鍛えるには

 それでもウォーキングで筋力をつけたい人は歩幅を広げて歩行速度を上げて歩けばよいと思います。上述の通り、自由歩行速度では運動効率が高められた状態であるため運動には適しません。

 ではどうするか?

 あえて運動効率の悪い歩き方をすればよいのです。歩行速度を上げることで下肢筋の筋活動量が増加することが報告されています。

 ただし、非効率な歩行運動へ切り替えるため重心の左右動揺が増加したり下肢関節の不安定性が増加する危険性があるため下肢関節疾患の患者さんへはお勧めできないと思います。

ポールウォーキング

 下肢関節疾患の患者さんがウォーキングを行う場合はポールウォーキングがお勧めです。

 ポールウォーキングとはその名の通り2本のポールを使って行う歩行で、冨岡3)は歩行時にポールを体の後方に突き推進力を得ようとするノルディックウォーキングとポールを身体前方に突く四点支持型のポールウォーキングに分けられるとしています。

 先行研究によるとポールウォーキングを行うことによって歩行中の左右の動揺と膝関節の内反モーメントが小さくなり足関節が背屈し足先が高く上がるということが示唆されています。

 また、加藤4)らの研究によるとウォーキングポールを使うことによって

のような効果が期待できるとされています。

歩行中の左右の動揺と膝関節の内反モーメントが小さくなるという点は膝の不安定性⇒軟骨のすり減り(融解)という膝OAの進行機序を考えると杖なしでのウォーキングよりは良いと考えられます。

ウォーキングで認知症予防

 ウォーキングをすることで認知症が予防できるのか?

 答えは、「できる」そうです。 

 海馬(記憶に関する部位)は65歳になると1年に1%程度委縮すという報告がありますが、有酸素運動や筋力トレーニングをすることにより海馬の神経細胞が増加することがわかっています。

 例えば、高齢者に速歩を週3回、1回40分、1年間実施したところ、海馬で新しい神経細胞が生まれやすくなり、海馬が1~2%大きくなったと報告されています。

 現時点では継続的なウォーキングやゲーム要素を取り入れた運動のみが科学的根拠により認知症を予防する可能性があるとされています。

 運動するとBDNF(脳由来性神経栄養因子)が多く分泌され、新たな神経細胞が生み出されたり神経細胞ネットワークが強化されると考えられています。

<プログラム例>

  1. 1日の生活歩数7000~8000歩を週5回
  2. 1日の合計30分の早歩きを週3回以上
  3. デュアル・タスク(二重課題)の実施

*デュアル・タスクとは運動をしながら脳を使うこと。例えば、ウォーキングしながら100から3をひくような計算やしりとりをするような運動です。デュアル・タスクにより、脳の萎縮を抑制し脳機能の維持に役立つとされています。

ウォーキングで生活習慣病予防する

 糖尿や高血圧などの生活習慣病を予防する目的でウォーキングを行っている方も多くいらっしゃると思います。

 生活習慣病を予防するためには3METs(メッツ)以上の強度の身体活動・運動を1日60分、1週間に23Ex(エクササイズ)以上行うことが必要とされています。

 ここで、METsとはMetabolic equivalentsの略で、活動・運動を行った時に安静状態の何倍の代謝(カロリー消費)をしているかを表している。例えば、歩く(近所の散歩)は2.5METsだが、これは安静時の2.5倍の代謝(カロリー消費)となる。

 METsから消費カロリーを計算するには

 消費カロリー(Kcal)=1.05 × メッツ × 時間 × 体重(Kg)

の簡易計算を使って計算することができる。

【例 散歩:2.5METsの運動を1時間 体重52Kgの人の消費カロリーを求める】         

 1.05 × 2.5 × 1.0(時間) × 52(Kg) =136.5(Kcal)

※ただし、この数字は活動を行っている時間に消費したカロリー全体(安静状態のカロリーと活動によって増えた消費を合わせた数字)なので、活動によって消費したカロリーは1METs分(安静状態のカロリー消費)をひいた81.9Kcalである。   

 また、上述のEx(エクササイズ)とは身体活動の量を表す単位で

 身体活動の強【METs】 × 身体活動の実施時間【時】=メッツ・時

【例:3METsの通常歩行を1時間行う】

 3METs × 1時間= 3 Ex(エクササイズ)【メッツ・時】

【例:4METsの庭掃除を30分行う】

 4METs × 30分(0.5時間)= 2 Ex(エクササイズ)【メッツ・時】        

現在の職場に満足していますか?もし、新しい分野に挑戦したいとお考えならすぐに1歩踏み出すべきです!

おわりに

 今回はウォーキングについて書いてみました。「筋肉をつけるためにウォーキングしてます」は臨床で頻繁に患者さんから言われるワードです。実際このブログを書いている間にも何人かの患者さんから言われました。。。

 そこで、「ウォーキングで筋力はつくのか?」という疑問から今回の記事を書くことにしました。今回の記事ではすべての文献を網羅できたわけではないと思いますので反対の結果を支持する内容のものもあるのかもしれませんが、私の調べた範囲では「ウォーキングは心理面にどう影響するか?」みたいな内容が多く身体機能面にフォーカスしたもの自体が少なかったというのが印象です。

 当然ながら全てに良い運動運動はありませんので、今回調べた内容を基にウォーキングで改善が期待できるものと違う方法でアプローチしたほうが良いものを振り分けて今後の患者さんへの指導につなげたいと思います。

 今回の記事が皆様のお役にてましたら幸いです。

参考文献

1) 村田 伸ら:地域在住高齢者の身体・認知・心理機能に及ぼすウォーキング介入の判定効果 理学療法科学 2009,24巻4号 509-515

2)新井 智之ら:地域在住高齢者におけるウォーキングの実施率と運動機能との関連 理学療法科学 2011,26巻5号 655-659

3)冨岡 徹:ストックを使ったウォーキングの歴史と身体的効果の文献学的検討 名城論叢 13A30,2008

4)加藤 麻樹ら:歩行運動におけるウォーキングポール使用の効果に関する研究 長野県短期大学紀要 65 75-80,2010-12

5)宮下 充正:ウォーキングブック-科学に基づいたウォーキング指導と実践- Book House HD

6)泉 嗣彦:医師がすすめるウォーキング 集英社新書 

変形性膝関節症の保存的理学療法(実践編)

はじめに

 前回の記事で変形性膝関節症の保存的理学療法を行うときは『膝の外旋』に着目すると良いということを書きました。今回は、『では、具体的にどうやって膝を内旋位にもっていくのか』について私が臨床の場で実際にやっている方法を書いていきたいと思います。

 前回の記事をまだ読まれてない方は是非こちらからどうぞ。

まず確認

 まずは膝関節の遊びを確認する。いろいろな患者さんの膝を触っていると膝の内旋方向への(関節の)遊びが大きい柔らかい膝とほとんど動かない硬い膝があると感じます。そこで、まず目の前の患者さんが膝の遊びが大きい患者さんなのかそれとも小さい患者さんなのかを確認します。

 手順は、患者さんを背臥位にした状態で患者さんの下腿を自分の大腿の上に乗せる。その状態から患者さんの股関節と膝を他動で屈曲・伸展させながら屈曲時に徒手で患者さんの下腿を内旋させる。この時の手に伝わる抵抗感で硬いか柔らかいかを判断する。

膝屈曲時に下腿内旋方向へ誘導し硬さを確認する

 また、別の方法としては患者さん背臥位で膝を立てた状態をとってもらい下腿を前方へ引き出す。ちょうど前十字靭帯損傷の前方引き出しテストと同じ方法です。前方引き出しテストと少し変えている部分はまっすぐ引き出した後に下腿の内側部を前方に引き出す方が柔らかいのか外側を引き出すのが柔らかいかを確認する点です。山田 英司1)先生は著書の中で、下腿の外側が前方に出やすい膝=下腿が内旋しやすい膝が望ましいと述べています。

 これらはどちらかというと評価に分類されると思いますが、アプローチにもそのまま使えます。そのため、私はこれらのやり方で患者さんの膝を評価したらそのまま内旋を誘導するように徒手にて下腿を動かします。

前方へ引き出す

山田先生の著書です。これまでも膝OAに関する本はたくさん読んできましたが、この本を読んでまだ自分の知らないことがあるんだなあ~と思わされる本でした。

変形性膝関節症の保存療法 [ 山田英司 ]

大腿筋膜張筋・腸脛靭帯へアプローチ

まずは大腿筋膜張筋の解剖学について

  • 股関節と大腿の動きを助ける外側の大腿筋
  • 起始は上前腸骨棘
  • 停止は腸脛靭帯
  • 神経支配は上殿神経(L4~S1)
  • 作用:股関節での大腿の屈曲・内旋と内転、股関節の安定化、膝関節での下腿の外旋
  • 血液供給:外側大腿回旋動脈及び上殿動脈

続いて腸脛靭帯の解剖学について

  • 大腿筋膜張筋の連続で脛骨の外側顆に付着している
  • 大腿筋膜張筋の下にある腸脛靭帯の一部は上向きに伸びて、股関節嚢の外側部と結合する

 上述の赤字の部分に書いているように大腿筋膜張筋の伸長性の低下がある場合は下腿の外旋を誘発します。大腿筋膜張筋が硬いかどうかの判断は大腿筋膜張筋の伸長性テストであるOberテストにより判断します。

 大腿筋膜張筋・腸脛靭帯が硬くて下腿の内旋が誘導できない場合は大腿筋膜張筋・腸脛靭帯のストレッチを行います。私の場合、ストレッチの方法はダイレクトストレッチもしくはOberテストの肢位でのストレッチを行います。ストレッチ後は再度パッシブでの膝屈曲時に下腿の内旋が誘導できるかを確認します。

伸長位でのダイレクトストレッチ

半腱様筋・半膜様筋

 まず半腱様筋の解剖学について

  • 半腱様筋はハムストリングス筋の一つで大腿部後区画の筋である
  • 起始は坐骨結節。総腱を半膜様筋及び大腿二頭筋と共有している
  • 停止は鵞足の総腱を通る脛骨幹上部の内側面
  • 神経支配:脛骨神経(L5~S2)
  • 作用:膝関節で下腿を屈曲し、下腿を内旋させる
  • 血液供給:大腿深動脈及び下臀動脈の貫通枝

 続いて半膜様筋の解剖学について

  • 半膜様筋は大腿部後区画の筋肉で最も深部にあるハムストリングスの筋である
  • 起始は坐骨結節。半腱様筋及び大腿二頭筋と総腱を共有している
  • 停止は脛骨の内側顆の後面
  • 神経支配:脛骨神経(L5~S2)
  • 作用:膝関節で下腿を屈曲し下腿を内旋させる
  • 血液供給:大腿深動脈及び下臀動脈の貫枝

 半腱様筋と半膜様筋に関しては上述のように下腿を内旋させる筋のため、この部が硬いことによって下腿の内旋が起こりにくくなる理由は正直分かりません。筋というより両筋の腱部に徒手でモビを行うと下腿の内旋方向への可動性がUpするため腱の滑走障害かもしくは膝の伸展制限により下腿の内旋方向への動きを制限しているかだと考えています。しかし、理由は分かりませんが経験的に改善する患者さんがいるため私はこの部位へのアプローチを加えます。

腱部を軽く圧迫しながら振動させる

膝窩筋

 膝窩筋の解剖学について

  • 膝窩筋は膝と下腿の動きを助ける脚の後区画の深層にある薄く扁平な三角形の筋肉で、膝窩部の下部を形成する
  • 起始は大腿骨外側顆の外側面
  • 停止は近位脛骨幹の後面
  • 神経支配:脛骨神経(可変:L4~S1)
  • 作用:膝関節での下腿の内旋、膝関節での下腿の屈曲(膝のロッキングを解除)
  • 血液供給:膝窩動脈(腓腹枝)

 膝窩筋に関しても上述のように下腿を内旋する筋なので膝窩筋が硬くなることで内旋が起こりづらくなるということは考えにくいかもしれません。しかし、臨床の現場で患者さんを触っていると膝窩筋のストレッチで下腿の内旋が改善する症例は確実に存在します。私は、膝窩筋が硬くなることにより膝の伸展制限が起こり下腿が内旋しづらくなっているのではないかと考えています。

 膝窩筋に対しては筋長が短いためダイレクトストレッチでアプローチします。

「勉強してもうちの病院ではできないよ~」という方は思い切って働く分野を変えてみると新たな世界が見えてくるかもしれませんよ!

可動性が出たら次はActive

 上述の3つの部位にアプローチを加えると多くの患者さんでは下腿内旋の可動性(関節の遊びのような感じ)が改善すると思います。他動での可動性が得られたら続いて自動(Active)で下腿の内旋運動を行います。

 方法は、膝を屈曲位にして大腿部を手で固定した状態でつま先を内側へ向けるように下腿を内旋させる(膝を屈曲させる理由は、膝伸展位で下腿を内旋させようとすると可動性の大きな股関節の内旋運動になってしまいやすいため)。

つま先を内側へ向けるように動かす

下腿の内旋を動きに反映させる

 徒手で下腿の内旋を誘導できるようになったらそれを動きに反映させます。

 私が行っている方法は①殿筋の筋力強化➁インソールによる距骨下関節回内誘導です。ここで、➁のインソールについてはある意味特殊な知識と技術が必要であるため①の殿筋の筋力強化について説明します。

 説明します、と偉そうに言いましたが単純に大殿筋の筋力トレーニングを行うだけなのですが。。。

 大殿筋の筋活動と距骨下関節の動きには関係性がみられるとされており、私がアプローチの主軸においている『入谷式足底板』の考え方の中でも同様のことが言われています。『入谷式足底板』については『足底板(インソール)について』という記事に書いていますので興味のある方は読んでみて下さい。変形性膝関節症の患者さんを本気で変えたいと思う場合はインソールは必須だと思います。想像してみてください、傾いた土台の上にビルを建てることを。どれだけ緻密な計算をしてなんとかバランスをとっていてもどこかに(おそらく変曲点の辺り)無理が生じていずれ壊れてしまいますよね?それではどうすればよいか?答えは簡単ですよね?建物をきちんと支えられる形に土台を整えればいいと思いませんか?変形性膝関節症の患者さんの足部はほとんど問題を抱えています。この土台となる足部の機能を整え、効用を継続させるためにインソールは必要だと思います。

 大殿筋の筋力トレ法はブリッジか腹臥位での下肢挙上を行います。あと、私は患者さんによってはハムストリングスと中殿筋の筋トレも必要に応じて行っています。これらが必要かどうかは試しに行わせてみてその直後に痛みや動きが改善するかを確認することで判断できます。

腹臥位での下肢挙上

ブリッジ

入谷式足底板の考え方は一度触れてみて損はありません。インソールを実際に作らない方でも運動療法への転用が可能な部分も多々あります。

入谷式足底板(基礎編) (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ) [ 入谷誠 ]

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おわりに

 今回は変形性膝関節症患者の下腿外旋に対するアプローチ方法について書きました。前回の記事ですでに書きましたが、変形性膝関節症で注目すべきポイントを1つ挙げるとすれば、それは『下腿の外旋』だと思います。

 今回の記事で書いたものの中には私自身もなぜそうなるかはっきりと分かっていないものもあります。しかし、臨床現場で多くの患者さんに試した結果、変化を起こすことができる方法を記載しました。もし、理由が解ったり他のアプローチ方法をご存じの方がいらっしゃったらTwitterなどにコメントをいただけたらと思います。

 もし、今回の記事が少しでもお役に立てましたら、お知り合いの方にシェアしていただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。

参考文献

1)変形性膝関節症の保存療法     山田 英司 著       運動と医学の出版社

変形性膝関節症の保存療法 [ 山田英司 ]

山田英司変形性膝関節症に対する保存的治療戦略 (理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて) [ 山田英司(理学療法) ]