はじめに
膝の患者さんを診ていると避けては通れない半月板損傷。最近は若年者のみならず中高齢者の半月板損傷も注目されているみたいです。そこで、今回は半月板についての基礎として半月板の可動性について書いていきたいと思います。
半月板の役割
半月板(Meniscus)は、ヒトの膝関節の間にあってクッションとなり、膝の円滑な運動を助ける働きをする線維軟骨組織である。半月板の主な役割は以下の5つです。
- 関節軟骨の衝撃吸収
- 可動域を適正に保つ
- 関節の適合を良くする
- 滑液を分散させる
- 関節内圧を均等化する
線維軟骨と硝子軟骨
次に半月板の構成要素である線維軟骨の特徴と関節面の構成要素である硝子軟骨との違いについて書いていきたいと思います。
線維軟骨とは
線維軟骨は細胞外マトリックスに多数のコラーゲン線維を含み、体の構造部分に柔軟性、靭性、弾力性を提供します。密な結合組織と硝子軟骨の間の中間的な特性が含まれています。線維軟骨は恥骨結合、半月板、椎間板の線維輪形成で発生します。線維軟骨はしばしば密な結合組織に関連しており、その主な機能は骨を他の骨に付着させ、関節の可動性を制限することです。
線維軟骨と硝子軟骨の類似点
- 線維軟骨と硝子軟骨の両方は、軟骨細胞と軟骨細胞によって分泌される細胞外マトリックスで構成されている
- 線維軟骨および硝子軟骨の細胞外マトリックスには、コラーゲン線維が含まれている
- 線維軟骨と硝子軟骨には血管、リンパ管、神経がない
- 線維軟骨と硝子軟骨はともに骨の動きに滑らかな表面を提供する
- 線維軟骨と硝子軟骨の柔軟性はともにコンドロイチンによるものである
線維軟骨と硝子軟骨の違い
- 線維軟骨のほうがより多くのコラーゲン線維が含まれている
- 線維軟骨にはⅠ型とⅡ型両方のコラーゲン線維が含まれているが硝子軟骨にはⅡ型のみしか含まれない
- 線維軟骨小窩にいくつかの軟骨細胞が含まれており、硝子軟骨には小窩に大きな軟骨細胞が含まれている
- 線維軟骨は半透明の青みがかった白色の軟骨で、硝子軟骨は白色である
- 硝子軟骨には軟骨膜が含まれるが、線維軟骨には軟骨膜がない
- 線維軟骨は骨を他の骨に付着させ関節の可動域を制限する。一方、硝子軟骨は関節の骨の滑らかな動きを促進する
半月板の可動性
膝屈伸時の半月板の移動方向
半月板の可動は関節運動や筋収縮に伴い受動的に行われます。半月板の移動量は膝屈曲時(非荷重時、0~90°)、内側半月板が後方へ約6mm、外側半月板が後方へ約12mmといわれています。つまり、外側半月板は内側半月板に比べて移動量が大きくなっています。これは、内側半月板が全長にわたり関節包及び冠状靭帯と付着している(中節はMCLと密に結合する)のに対して外側半月板は関節包と前方1/2しか付着しないためです。半月板の移動方向をイメージしやすくするために以下に箇条書きでまとめます。
- 膝屈曲 → 内・外側半月板ともに後方へ移動する
- 膝伸展 → 内・外側半月板ともに前方へ移動する
- 下腿内旋 → 内側半月板は前方へ、外側半月板は後方へ移動する
- 下腿外旋 → 内側半月板は後方へ、外側半月板は前方へ移動する
イメージできますか?イメージしにくい方は膝を動かすときの大腿骨顆部にくっついているイメージを持つと私は覚えやすかったです。半月板の動きが膝の可動域制限の要因となっている場合、移動方向のイメージを持っておくことは非常に重要だと思いますので是非覚えておくといいと思います。
半月板誘導のメカニズム
半月板前方移動に関与する張力伝達組織
- 内外側半月膝蓋靭帯
- 膝横靭帯
- 内側側副靭帯(MCL)深層線維・後斜靭帯
- 前・後半月大腿靭帯
- 膝蓋下脂肪体
前方移動の3つのメカニズム
- 大腿四頭筋の収縮による伸展機構の緊張と大腿骨顆部のroll-forwardに伴う膝蓋骨の前方への押出し力内・外側の半月大腿靭帯が伝達して半月板を前方へ引く
- 膝蓋靭帯の前進とともに膝蓋下脂肪体も前方へと引かれ、この時の張力が膝横靭帯を介して内・外側半月板を前方へ引く
- 半月板後方に位置するMCL深層線維・後斜靭帯及び前・後半月大腿靭帯の緊張による押し出し作用により前進する
半月板後方移動に関与する組織
- 半膜様筋
- 膝窩筋
- MCL深層線維・後斜靭帯
- 前・後半月大腿靭帯
後方移動の3つのメカニズム
- 半膜様筋の収縮を介した後斜靭帯・内側半月板を引き出す機構による内側半月板の後方引き出し
- 膝窩筋の収縮による外側半月板の後方引き出し
- 膝関節屈曲に伴うMCL深層線維・後斜靭帯、半月大腿靭帯のゆるみにより形成されるスペースへの半月板の移動
*内・外側半月板の後方移動のメカニズムは大腿骨顆部のロールバックを基盤とする
おわりに
今回は半月板の可動性についてまとめました。実は、現在内側半月板のインピンジが原因と思われる膝関節拘縮の患者さんのリハビリで苦戦しています。なかなかないぐらいの硬さです。術後の患者さんなので最初は腫脹や皮膚の可動性の低下が原因と考えていたので「まあちょっと固めだけど良くなっていくだろう」ぐらいの感じで進めていたのですがなかなか改善がみられていきませんでした。曲げた感じとしては内側で何かが詰まっている感じがしていました。そこでいろいろ調べて半月板の動きを誘導しながら可動域訓練を行ったところ少しずつではありますが改善が見られました。現在も相変わらず固いですが少しずつ可動域は改善しています。このような経験から今回の記事のテーマを「半月板の可動性」としました。また、それに付随して半月板損傷に関してもたくさんの文献を読んだのでそのうちこのブログに載せたいと思います。
今回参考にさせていただいた「膝関節拘縮の評価と運動療法」は膝に関するすべてが載っているんではないかと思うくらいの良書でした。良くこんなにまとめてあるな~と感心しました。
参考文献
- 膝関節拘縮の評価と運動療法 監修 林 典雄 執筆 橋本 貴幸
- 線維軟骨と硝子軟骨の違い-2021-ニュース ja.weblogographic.com
- プロメテウス解剖学コアアトラス第2版 Edited by Anne M.Gilroy