ある理学療法士のブログ

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変形性膝関節症の保存的理学療法(実践編)

はじめに

 前回の記事で変形性膝関節症の保存的理学療法を行うときは『膝の外旋』に着目すると良いということを書きました。今回は、『では、具体的にどうやって膝を内旋位にもっていくのか』について私が臨床の場で実際にやっている方法を書いていきたいと思います。

 前回の記事をまだ読まれてない方は是非こちらからどうぞ。

まず確認

 まずは膝関節の遊びを確認する。いろいろな患者さんの膝を触っていると膝の内旋方向への(関節の)遊びが大きい柔らかい膝とほとんど動かない硬い膝があると感じます。そこで、まず目の前の患者さんが膝の遊びが大きい患者さんなのかそれとも小さい患者さんなのかを確認します。

 手順は、患者さんを背臥位にした状態で患者さんの下腿を自分の大腿の上に乗せる。その状態から患者さんの股関節と膝を他動で屈曲・伸展させながら屈曲時に徒手で患者さんの下腿を内旋させる。この時の手に伝わる抵抗感で硬いか柔らかいかを判断する。

膝屈曲時に下腿内旋方向へ誘導し硬さを確認する

 また、別の方法としては患者さん背臥位で膝を立てた状態をとってもらい下腿を前方へ引き出す。ちょうど前十字靭帯損傷の前方引き出しテストと同じ方法です。前方引き出しテストと少し変えている部分はまっすぐ引き出した後に下腿の内側部を前方に引き出す方が柔らかいのか外側を引き出すのが柔らかいかを確認する点です。山田 英司1)先生は著書の中で、下腿の外側が前方に出やすい膝=下腿が内旋しやすい膝が望ましいと述べています。

 これらはどちらかというと評価に分類されると思いますが、アプローチにもそのまま使えます。そのため、私はこれらのやり方で患者さんの膝を評価したらそのまま内旋を誘導するように徒手にて下腿を動かします。

前方へ引き出す

山田先生の著書です。これまでも膝OAに関する本はたくさん読んできましたが、この本を読んでまだ自分の知らないことがあるんだなあ~と思わされる本でした。

変形性膝関節症の保存療法 [ 山田英司 ]

大腿筋膜張筋・腸脛靭帯へアプローチ

まずは大腿筋膜張筋の解剖学について

  • 股関節と大腿の動きを助ける外側の大腿筋
  • 起始は上前腸骨棘
  • 停止は腸脛靭帯
  • 神経支配は上殿神経(L4~S1)
  • 作用:股関節での大腿の屈曲・内旋と内転、股関節の安定化、膝関節での下腿の外旋
  • 血液供給:外側大腿回旋動脈及び上殿動脈

続いて腸脛靭帯の解剖学について

  • 大腿筋膜張筋の連続で脛骨の外側顆に付着している
  • 大腿筋膜張筋の下にある腸脛靭帯の一部は上向きに伸びて、股関節嚢の外側部と結合する

 上述の赤字の部分に書いているように大腿筋膜張筋の伸長性の低下がある場合は下腿の外旋を誘発します。大腿筋膜張筋が硬いかどうかの判断は大腿筋膜張筋の伸長性テストであるOberテストにより判断します。

 大腿筋膜張筋・腸脛靭帯が硬くて下腿の内旋が誘導できない場合は大腿筋膜張筋・腸脛靭帯のストレッチを行います。私の場合、ストレッチの方法はダイレクトストレッチもしくはOberテストの肢位でのストレッチを行います。ストレッチ後は再度パッシブでの膝屈曲時に下腿の内旋が誘導できるかを確認します。

伸長位でのダイレクトストレッチ

半腱様筋・半膜様筋

 まず半腱様筋の解剖学について

  • 半腱様筋はハムストリングス筋の一つで大腿部後区画の筋である
  • 起始は坐骨結節。総腱を半膜様筋及び大腿二頭筋と共有している
  • 停止は鵞足の総腱を通る脛骨幹上部の内側面
  • 神経支配:脛骨神経(L5~S2)
  • 作用:膝関節で下腿を屈曲し、下腿を内旋させる
  • 血液供給:大腿深動脈及び下臀動脈の貫通枝

 続いて半膜様筋の解剖学について

  • 半膜様筋は大腿部後区画の筋肉で最も深部にあるハムストリングスの筋である
  • 起始は坐骨結節。半腱様筋及び大腿二頭筋と総腱を共有している
  • 停止は脛骨の内側顆の後面
  • 神経支配:脛骨神経(L5~S2)
  • 作用:膝関節で下腿を屈曲し下腿を内旋させる
  • 血液供給:大腿深動脈及び下臀動脈の貫枝

 半腱様筋と半膜様筋に関しては上述のように下腿を内旋させる筋のため、この部が硬いことによって下腿の内旋が起こりにくくなる理由は正直分かりません。筋というより両筋の腱部に徒手でモビを行うと下腿の内旋方向への可動性がUpするため腱の滑走障害かもしくは膝の伸展制限により下腿の内旋方向への動きを制限しているかだと考えています。しかし、理由は分かりませんが経験的に改善する患者さんがいるため私はこの部位へのアプローチを加えます。

腱部を軽く圧迫しながら振動させる

膝窩筋

 膝窩筋の解剖学について

  • 膝窩筋は膝と下腿の動きを助ける脚の後区画の深層にある薄く扁平な三角形の筋肉で、膝窩部の下部を形成する
  • 起始は大腿骨外側顆の外側面
  • 停止は近位脛骨幹の後面
  • 神経支配:脛骨神経(可変:L4~S1)
  • 作用:膝関節での下腿の内旋、膝関節での下腿の屈曲(膝のロッキングを解除)
  • 血液供給:膝窩動脈(腓腹枝)

 膝窩筋に関しても上述のように下腿を内旋する筋なので膝窩筋が硬くなることで内旋が起こりづらくなるということは考えにくいかもしれません。しかし、臨床の現場で患者さんを触っていると膝窩筋のストレッチで下腿の内旋が改善する症例は確実に存在します。私は、膝窩筋が硬くなることにより膝の伸展制限が起こり下腿が内旋しづらくなっているのではないかと考えています。

 膝窩筋に対しては筋長が短いためダイレクトストレッチでアプローチします。

「勉強してもうちの病院ではできないよ~」という方は思い切って働く分野を変えてみると新たな世界が見えてくるかもしれませんよ!

可動性が出たら次はActive

 上述の3つの部位にアプローチを加えると多くの患者さんでは下腿内旋の可動性(関節の遊びのような感じ)が改善すると思います。他動での可動性が得られたら続いて自動(Active)で下腿の内旋運動を行います。

 方法は、膝を屈曲位にして大腿部を手で固定した状態でつま先を内側へ向けるように下腿を内旋させる(膝を屈曲させる理由は、膝伸展位で下腿を内旋させようとすると可動性の大きな股関節の内旋運動になってしまいやすいため)。

つま先を内側へ向けるように動かす

下腿の内旋を動きに反映させる

 徒手で下腿の内旋を誘導できるようになったらそれを動きに反映させます。

 私が行っている方法は①殿筋の筋力強化➁インソールによる距骨下関節回内誘導です。ここで、➁のインソールについてはある意味特殊な知識と技術が必要であるため①の殿筋の筋力強化について説明します。

 説明します、と偉そうに言いましたが単純に大殿筋の筋力トレーニングを行うだけなのですが。。。

 大殿筋の筋活動と距骨下関節の動きには関係性がみられるとされており、私がアプローチの主軸においている『入谷式足底板』の考え方の中でも同様のことが言われています。『入谷式足底板』については『足底板(インソール)について』という記事に書いていますので興味のある方は読んでみて下さい。変形性膝関節症の患者さんを本気で変えたいと思う場合はインソールは必須だと思います。想像してみてください、傾いた土台の上にビルを建てることを。どれだけ緻密な計算をしてなんとかバランスをとっていてもどこかに(おそらく変曲点の辺り)無理が生じていずれ壊れてしまいますよね?それではどうすればよいか?答えは簡単ですよね?建物をきちんと支えられる形に土台を整えればいいと思いませんか?変形性膝関節症の患者さんの足部はほとんど問題を抱えています。この土台となる足部の機能を整え、効用を継続させるためにインソールは必要だと思います。

 大殿筋の筋力トレ法はブリッジか腹臥位での下肢挙上を行います。あと、私は患者さんによってはハムストリングスと中殿筋の筋トレも必要に応じて行っています。これらが必要かどうかは試しに行わせてみてその直後に痛みや動きが改善するかを確認することで判断できます。

腹臥位での下肢挙上

ブリッジ

入谷式足底板の考え方は一度触れてみて損はありません。インソールを実際に作らない方でも運動療法への転用が可能な部分も多々あります。

入谷式足底板(基礎編) (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ) [ 入谷誠 ]

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おわりに

 今回は変形性膝関節症患者の下腿外旋に対するアプローチ方法について書きました。前回の記事ですでに書きましたが、変形性膝関節症で注目すべきポイントを1つ挙げるとすれば、それは『下腿の外旋』だと思います。

 今回の記事で書いたものの中には私自身もなぜそうなるかはっきりと分かっていないものもあります。しかし、臨床現場で多くの患者さんに試した結果、変化を起こすことができる方法を記載しました。もし、理由が解ったり他のアプローチ方法をご存じの方がいらっしゃったらTwitterなどにコメントをいただけたらと思います。

 もし、今回の記事が少しでもお役に立てましたら、お知り合いの方にシェアしていただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。

参考文献

1)変形性膝関節症の保存療法     山田 英司 著       運動と医学の出版社

変形性膝関節症の保存療法 [ 山田英司 ]

山田英司変形性膝関節症に対する保存的治療戦略 (理学療法士列伝ーEBMの確立に向けて) [ 山田英司(理学療法) ]