はじめに
今回は変形性膝関節症について書きます。変形性膝関節症は整形外科の臨床現場ではよく見かける疾患ではありますが、非常に奥が深く個人的には大好きな疾患です。変形性膝関節症の保存的療法にはPTとして必要な多くの要素が含まれていると思います(あくまで個人的意見です)。しかし、それゆえに奥深く見ていくべきところが数多く存在するため初学者の方にはやや難しく感じるのではないでしょうか。そこで、今回はそんな方のために『ここに注目して診てみて』というポイントを書いていきたいと思います。
変形性膝関節症とは
変形性膝関節症は以下のように定義される。
『変形性膝関節症は、関節軟骨の進行性の変性病変を主体とした骨の変形性変化として定義される。すなわち、、非炎症性で、進行性の可動関節、特に荷重関節を侵す疾患で、病理学的には関節軟骨の変性・摩耗による荒廃と、関節縁の骨新生がみられ、摩耗相が混在している1)。』
押さえておくべき前提条件
変形性膝関節症の保存的理学療法を行うにあたってあらかじめ押さえておくべき点は以下の点だと考えています。
- 関節軟骨には血管がないため関節軟骨は炎症を起こさない
- 関節軟骨には痛覚細胞がないため軟骨がすり減っても軟骨は痛みを感じない
- 軟骨下骨には痛覚細胞が存在するため軟骨が欠損する(すり減りきると)と痛みを感じる
前提を踏まえて
上述の前提を踏まえて考えると、変形性膝関節症の患者さんの痛みはX線上軟骨が残っているのであれば軟骨で感じているのではなく、その周囲の軟部組織(脂肪体、腱付着部、滑膜等)で感じている可能性が高いということです。
よく考えてみると、変形性膝関節症の痛みが軟骨で感じているようだと保存療法で痛みが軽減することは考えにくいですよね。
半月板に関しては、当院では診断時にMRI検査を行うことが多いのですが、変形性膝関節症の患者さんの多くに半月板損傷が見られます。しかし、半月板損傷は無症候性のものも多いことが報告されており、また、半月板由来の痛みに関してはひっかかり感などの特徴的な痛みを訴えることが多いためある程度は鑑別が可能であると考えています。
今回参考にさせていただいた山田先生の書籍です。基本から最新の知見が読みやすく書かれていました。非常に読みやすい本でした。
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理学療法のすすめ方
炎症か機能障害かを見極める
変形性膝関節症の患者さんを診るときにまずすべきことは、その痛みが『炎症性の痛み』なのかそれとも『機能障害による痛み』なのかを判断するということです。
臨床現場においてこれは非常に重要なことで、まだ炎症期にある患者さんに温熱療法や積極的な理学療法を行ってしまうと痛みの増悪を招いてしまいます。そのため、炎症期の患者さんと機能障害の患者さんでは対応を変える必要があると考えています。
私は目の前の患者さんの痛みが『炎症期』のものか『機能障害』のものかの判断は以下のように行っています。
- エコーによる血流の増加を確認する
- 熱感や発赤などの炎症所見を確認する
- 痛みの質や出方から判断する
上述のように、最近、私はエコーで炎症所見の確認を行うようにしています。エコーを使って確認することで自信をもって方針を立てることができますし、患者さんも一緒に視覚的に確認できるため病状と方針について納得していただきやすいように感じます。また、エコーで毎日患者さんを診ていて気付いたのですが、炎症状態で来院した患者さんで、痛みが軽減した後も血流の増加が続いている方がいらっしゃいます。そのような方は、痛みが軽減したのを契機に運動量を急激に増やすと痛みがぶり返す傾向にあります。エコーによる状態管理はこのような症例に対して適当な時期に適当な運動を処方するために有用であると考えます。
しかし、病院によっては経費や時間なのど問題でエコーを使えない職場もあると思います。そのような環境では炎症所見の確認と痛みの評価によって判断することが可能であると思います。炎症の兆候には熱感や発赤、腫脹、疼痛(ここではあえて機能障害を炎症と切り分けて考えます。そもそも私の学生時代は四兆候で習いました(笑))などが挙げられますが、変形性膝関節症の患者さんの膝では熱感の左右差で判断するのが判りやすいと思います。なぜならば、変形性膝関節症の患者さんの膝は慢性的に腫れていることがほとんどですし、発赤まである方は臨床現場ではあまり経験しません。そして、痛みの評価についてですが、炎症期にある患者さんの痛みは『じっとしていても痛い』などの安静時痛で『ずきずき疼くように痛い』や『痛くて足がつけない』など鋭い痛みで表現されることが多いです。
このような炎症期にある患者さんには温熱療法や積極的な運動療法は禁忌で、『アイシング』や『安静(運動量の制限)』及び『Dr.による薬物療法』が適応になると考えます。
ちなみに、アイシングするように患者さんに指導すると大体、「え、冷やすの」や「ひんやりする湿布を貼ってます」という反応が返ってきます。そもそも湿布はひんやりと感じるだけでアイシングの効果はありません。実際に氷嚢でアイシングしていただいた方が効果的であるように感じます。
機能障害の場合
ここでいう『機能障害』とは『炎症による痛み以外』と思ってください。
機能障害による痛みはPTが得意とするところですよね。というか、ここを診れないとPTの存在意義が・・・・
変形性膝関節症の治療を考えていくときどこに着目するか?、動作分析でどこを観るかが非常に難しいと思います。体幹?股関節?足関節?...もちろん全てが大切なのですが、なかなか最初からこれら全てを観ることは難しいように思います。私もどうしてもその時のマイブームとなっている箇所に目がいってしまい、はたして正確に観れているか...
そこで、とりあえずここをまずみればいいのではないかと思うところを挙げたいと思います。
それは『膝の外旋』です。
私がこう考えるようになったのには理由があります。
変形性膝関節症で痛みを出す組織として園部2)(詳しくは『園部俊晴の臨床~膝関節~』書評をご覧ください)は以下の7つを挙げています。
- 内側側副靭帯
- 半月板
- 鵞足
- 半膜様筋
- 伏在神経
- 腸脛靭帯
- 膝窩筋
この組織のうち、1.内側側副靭帯、(2.半月板は外側の中節・後節、まれに内側の前節)3.鵞足、4.半膜様筋、5.伏在神経、7.膝窩筋は全て膝の外旋を制動する機能を持つかもしくは外旋によって緊張が高まる組織です(筋は身体を制動するために主動筋としてではなく受動的に遠心性で働きます)。また、ここには挙げられていませんが、園部は同書で変形性膝関節症の患者さんでは膝蓋下脂肪体が痛みを出している確率が高いこと、膝の外旋によって膝蓋下脂肪体の関節内への移動経路が狭まってしまうことを述べています。
つまり、痛みを出している組織を考えてみると必然的に膝の外旋に注目すべきということが見えてくるんです。
そのため、機能障害による痛みに対してはずばり『動作時に膝が内旋してくる』ように理学療法プログラムを組んでいけばよいと思います。
園部先生の書かれたこの書籍には膝疾患の痛みの原因となりやすい部位がまとめてあり書いてあり、臨床での重要なヒントとして活用できます。ボリュームもたっぷりで読み応えあり!です。
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まとめ
以上のことより、歩行分析や動作分析が苦手な方は、まず変形性膝関節症の患者さんの分析を行う際に膝の内外旋に注目して観てみると良いと思います。そのうえで、余裕が出てきたら膝が外旋してしまう理由、膝が内外反してしまう理由を考えるために体幹の位置や股関節・骨盤体の動き、足関節の肢位などを絡めて考えていくと系統だった臨床推論ができていくのではないかと思います。
次の記事で具体的に膝の外旋に対するアプローチ方法を書いていますので併せてご覧いただけたらと思います。
おわりに
今回は変形性の膝関節症についてざっくりとではありますが、とにかく『ここを診たらいいんではないか』というところについて書いてみました。『はじめに』でも書きましたが変形性膝関節症の理学療法はとても奥が深く観るべきところがたくさんあるのですが、究極的には膝で問題が起こっているのですから膝がどういう形になったら良いのか、そのために他の身体の部分をどのようにコントロールしたらよいのかという流れで考えていくべきだと思います。こういう順序で考えられるようになると膝であれ肩であれ保存的理学療法を深く展開していけるのではないかと思います。
今回の記事がどなたかのお役に立てたら幸いです。もし、今回の記事が少しでもお役に立てたようでしたらお知り合いの方にシェアしていただけたらと思います。よろしくお願いいたします。
若いうちはとにかく多くの考え方に触れると良いと思います。100聴いて1使えればいいと思います。予算気にせず聴講できるので、とにかく聞き流しでもいいから(たぶん怒られます)聴いときましょ(笑)
参考文献
1) 山本 真、杉岡 洋一、二ノ宮節夫:変形性膝関節症のすべて.医歯薬出版、 東京、1982
2) 園部 俊晴の臨床~膝関節~ 運動と医学の出版社