ある理学療法士のブログ

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変形性膝関節症(osteoarthritis of the knee)の保存的理学療法

はじめに

 今回は変形性膝関節症について書きます。変形性膝関節症は整形外科の臨床現場ではよく見かける疾患ではありますが、非常に奥が深く個人的には大好きな疾患です。変形性膝関節症の保存的療法にはPTとして必要な多くの要素が含まれていると思います(あくまで個人的意見です)。しかし、それゆえに奥深く見ていくべきところが数多く存在するため初学者の方にはやや難しく感じるのではないでしょうか。そこで、今回はそんな方のために『ここに注目して診てみて』というポイントを書いていきたいと思います。

変形性膝関節症とは

 変形性膝関節症は以下のように定義される。

 『変形性膝関節症は、関節軟骨の進行性の変性病変を主体とした骨の変形性変化として定義される。すなわち、、非炎症性で、進行性の可動関節、特に荷重関節を侵す疾患で、病理学的には関節軟骨の変性・摩耗による荒廃と、関節縁の骨新生がみられ、摩耗相が混在している1)。』

押さえておくべき前提条件

 変形性膝関節症の保存的理学療法を行うにあたってあらかじめ押さえておくべき点は以下の点だと考えています。

  1. 関節軟骨には血管がないため関節軟骨は炎症を起こさない
  2. 関節軟骨には痛覚細胞がないため軟骨がすり減っても軟骨は痛みを感じない
  3. 軟骨下骨には痛覚細胞が存在するため軟骨が欠損する(すり減りきると)と痛みを感じる

前提を踏まえて

 上述の前提を踏まえて考えると、変形性膝関節症の患者さんの痛みはX線上軟骨が残っているのであれば軟骨で感じているのではなく、その周囲の軟部組織(脂肪体、腱付着部、滑膜等)で感じている可能性が高いということです。

 よく考えてみると、変形性膝関節症の痛みが軟骨で感じているようだと保存療法で痛みが軽減することは考えにくいですよね。

 半月板に関しては、当院では診断時にMRI検査を行うことが多いのですが、変形性膝関節症の患者さんの多くに半月板損傷が見られます。しかし、半月板損傷は無症候性のものも多いことが報告されており、また、半月板由来の痛みに関してはひっかかり感などの特徴的な痛みを訴えることが多いためある程度は鑑別が可能であると考えています。

今回参考にさせていただいた山田先生の書籍です。基本から最新の知見が読みやすく書かれていました。非常に読みやすい本でした。

変形性膝関節症の保存療法 [ 山田英司 ]

理学療法すすめ方

炎症か機能障害かを見極める

 変形性膝関節症の患者さんを診るときにまずすべきことは、その痛みが『炎症性の痛み』なのかそれとも『機能障害による痛み』なのかを判断するということです。

 臨床現場においてこれは非常に重要なことで、まだ炎症期にある患者さんに温熱療法や積極的な理学療法を行ってしまうと痛みの増悪を招いてしまいます。そのため、炎症期の患者さんと機能障害の患者さんでは対応を変える必要があると考えています。

 私は目の前の患者さんの痛みが『炎症期』のものか『機能障害』のものかの判断は以下のように行っています。

  • エコーによる血流の増加を確認する
  • 熱感や発赤などの炎症所見を確認する
  • 痛みの質や出方から判断する 

 上述のように、最近、私はエコーで炎症所見の確認を行うようにしています。エコーを使って確認することで自信をもって方針を立てることができますし、患者さんも一緒に視覚的に確認できるため病状と方針について納得していただきやすいように感じます。また、エコーで毎日患者さんを診ていて気付いたのですが、炎症状態で来院した患者さんで、痛みが軽減した後も血流の増加が続いている方がいらっしゃいます。そのような方は、痛みが軽減したのを契機に運動量を急激に増やすと痛みがぶり返す傾向にあります。エコーによる状態管理はこのような症例に対して適当な時期に適当な運動を処方するために有用であると考えます。

 しかし、病院によっては経費や時間なのど問題でエコーを使えない職場もあると思います。そのような環境では炎症所見の確認と痛みの評価によって判断することが可能であると思います。炎症の兆候には熱感や発赤、腫脹、疼痛(ここではあえて機能障害を炎症と切り分けて考えます。そもそも私の学生時代は四兆候で習いました(笑))などが挙げられますが、変形性膝関節症の患者さんの膝では熱感の左右差で判断するのが判りやすいと思います。なぜならば、変形性膝関節症の患者さんの膝は慢性的に腫れていることがほとんどですし、発赤まである方は臨床現場ではあまり経験しません。そして、痛みの評価についてですが、炎症期にある患者さんの痛みは『じっとしていても痛い』などの安静時痛で『ずきずき疼くように痛い』や『痛くて足がつけない』など鋭い痛みで表現されることが多いです。

 このような炎症期にある患者さんには温熱療法や積極的な運動療法は禁忌で、『アイシング』や『安静(運動量の制限)』及び『Dr.による薬物療法』が適応になると考えます。

 ちなみに、アイシングするように患者さんに指導すると大体、「え、冷やすの」や「ひんやりする湿布を貼ってます」という反応が返ってきます。そもそも湿布はひんやりと感じるだけでアイシングの効果はありません。実際に氷嚢でアイシングしていただいた方が効果的であるように感じます。

機能障害の場合

 ここでいう『機能障害』とは『炎症による痛み以外』と思ってください。

 機能障害による痛みはPTが得意とするところですよね。というか、ここを診れないとPTの存在意義が・・・・

 変形性膝関節症の治療を考えていくときどこに着目するか?、動作分析でどこを観るかが非常に難しいと思います。体幹?股関節?足関節?...もちろん全てが大切なのですが、なかなか最初からこれら全てを観ることは難しいように思います。私もどうしてもその時のマイブームとなっている箇所に目がいってしまい、はたして正確に観れているか...

 そこで、とりあえずここをまずみればいいのではないかと思うところを挙げたいと思います。

 それは『膝の外旋』です。

 私がこう考えるようになったのには理由があります。

 変形性膝関節症で痛みを出す組織として園部2)(詳しくは『園部俊晴の臨床~膝関節~』書評をご覧ください)は以下の7つを挙げています。

  1. 内側側副靭帯
  2. 半月板
  3. 鵞足
  4. 半膜様筋
  5. 伏在神経
  6. 腸脛靭帯
  7. 膝窩筋

 この組織のうち、1.内側側副靭帯、(2.半月板は外側の中節・後節、まれに内側の前節)3.鵞足、4.半膜様筋、5.伏在神経、7.膝窩筋は全て膝の外旋を制動する機能を持つかもしくは外旋によって緊張が高まる組織です(筋は身体を制動するために主動筋としてではなく受動的に遠心性で働きます)。また、ここには挙げられていませんが、園部は同書で変形性膝関節症の患者さんでは膝蓋下脂肪体が痛みを出している確率が高いこと、膝の外旋によって膝蓋下脂肪体の関節内への移動経路が狭まってしまうことを述べています。

 つまり、痛みを出している組織を考えてみると必然的に膝の外旋に注目すべきということが見えてくるんです。

 そのため、機能障害による痛みに対してはずばり『動作時に膝が内旋してくる』ように理学療法プログラムを組んでいけばよいと思います。

園部先生の書かれたこの書籍には膝疾患の痛みの原因となりやすい部位がまとめてあり書いてあり、臨床での重要なヒントとして活用できます。ボリュームもたっぷりで読み応えあり!です。

【送料無料】 園部俊晴の臨床 膝関節 / 園部俊晴 【本】

まとめ

 以上のことより、歩行分析や動作分析が苦手な方は、まず変形性膝関節症の患者さんの分析を行う際に膝の内外旋に注目して観てみると良いと思います。そのうえで、余裕が出てきたら膝が外旋してしまう理由、膝が内外反してしまう理由を考えるために体幹の位置や股関節・骨盤体の動き、足関節の肢位などを絡めて考えていくと系統だった臨床推論ができていくのではないかと思います。

次の記事で具体的に膝の外旋に対するアプローチ方法を書いていますので併せてご覧いただけたらと思います。

おわりに

 今回は変形性の膝関節症についてざっくりとではありますが、とにかく『ここを診たらいいんではないか』というところについて書いてみました。『はじめに』でも書きましたが変形性膝関節症の理学療法はとても奥が深観るべきところがたくさんあるのですが、究極的には膝で問題が起こっているのですから膝がどういう形になったら良いのか、そのために他の身体の部分をどのようにコントロールしたらよいのかという流れで考えていくべきだと思います。こういう順序で考えられるようになると膝であれ肩であれ保存的理学療法を深く展開していけるのではないかと思います。

 今回の記事がどなたかのお役に立てたら幸いです。もし、今回の記事が少しでもお役に立てたようでしたらお知り合いの方にシェアしていただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

若いうちはとにかく多くの考え方に触れると良いと思います。100聴いて1使えればいいと思います。予算気にせず聴講できるので、とにかく聞き流しでもいいから(たぶん怒られます)聴いときましょ(笑)

参考文献

1) 山本 真、杉岡 洋一、二ノ宮節夫:変形性膝関節症のすべて.医歯薬出版、     東京、1982

2) 園部 俊晴の臨床~膝関節~  運動と医学の出版社

前十字靭帯損傷術後の筋力トレーニング(CKC)の進め方

はじめに

 前十字靭帯(ACL)損傷の術後では関節への剪断力の関係からCKC(Close kinetic Chain)での筋力トレーニングが術後早期から行われます。今回の記事ではACL術後早期からアスレティックリハビリテーション期にかけてのCKCでの筋力トレーニングの進め方について書いていきたいと思います。

 ACL損傷のリハビリの概要については以前このブログで「ACL損傷のリハビリテーションの進め方」という記事を書いていますのでご覧になっていない方はまずこちらを読んでみて下さい。

ACL損傷術後に対して時期別プログラムが記載されたいます。ACL術後を診るPTには必読の1冊だと思います。

スポーツ外傷・障害に対する術後のリハビリテーション 内山英司/監修 岩噌弘志/監修 園部俊晴/筆 今屋健/筆 勝木秀治/筆

膝のスポーツ外傷・障害について幅広く書かれています。上の書籍と合わせて読むと理学療法の選択肢が広がります。

膝のスポーツリハビリテーション [ 大内 洋 ]

スクワット

 患側下肢での荷重が可能になったら(荷重制限のあるプロトコールの場合1/2荷重が許可されたら)まず両下肢を肩幅に開いた姿勢でスクワットを開始します。スクワットの深さは浅いQuarter(1/4)スクワットから開始し徐々にHalf(1/2)スクワットまで進めていきます。回数は患者さんのレベルに合わせて10回×3セットから20回×5セットまで徐々に増やしていき、動作の速さもゆっくりから早めまでバリエーションを変えながら行います。

 スクワットを行う時の注意点はKnee inにならないこと➁踵体重にならないことです。  

 まず、①「Knee in」はACL損傷の代表的な肢位ですが、受傷機転がnon-contact(非接触型)の患者さんではスクワットを行う時にKnee inしてくることが多く再受傷予防の観点からKnee inの肢位をとらないよう再教育することが必要です。しかし、患者さんの中には「膝が内に入りやすいから」といっても膝がうちに入っていることを自覚できない方が多数いらっしゃいます。そのため、鏡などを使ってKnee inしていることを自覚させることが重要です。また、Knee inでの屈曲では外側半月板の中節から後節への負荷が大きくなり同部位の半月板損傷を引き起こす可能性が高まります(半月板の可動性について)。

 次に、➁「踵体重にならないこと」はスクワット時に踵荷重でスクワットを行うと足部前方荷重で行う場合と比べて脛骨の前方移動量が増加するといわれています。脛骨の前方移動量が増えるということは当然再建したACLへの負荷が大きくなりゆるみの原因となり得ます。そのためスクワット時の荷重位置は足部中央~外果直下の間くらいで実施します。

 スクワットの時のアドバイスとしては膝を曲げていくときに大殿筋が入るように意識させると自然とKnee inしなくなってきます。私も以前は「皿の中心をつま先に向けるよう意識してください」としつこく声掛けしていたのですが、このやり方だと筋トレ時は上手くできるのですが動作になるとKnee inしてきてしまいます。そのため、最近は膝を曲げていくときにお尻に力が入るように体幹の傾斜角度を変えてみてくださいと指導しています。

 スクワットの肢位はスポーツの基本的な構えであるパワーポジションの姿勢です。そのため、スポーツ復帰を目指す場合はこの肢位が安定してとれるということが大前提となるので非常に重要なトレーニングであると思います。ちなみに、当院のトレーナーに聞いてみたところスポーツの現場ではDr.の許可が出た場合、術後3ヵ月ぐらいから重りを加えてのスクワットを開始するとのことでした。

スプリットスクワット

 スクワットでQuadの収縮が入るようになってきたら患側下肢を一歩前に出した肢位で行うスプリットスクワットを行っていきます。荷重制限のあるプロトコールの場合は全荷重が許可されてから開始します。当然踏み出し幅が大きくなると不安定性が増すため歩幅は小さめから始めます。この時の注意点もスクワットの時と同じ①Knee inにならないようにと➁踵体重にならないようにということです。ただし、①のKnee inにならないようにという点に関して体幹が患側へ側屈してきて相対的にKnee in肢位になってしまう場合があるので下肢のアライメントばかりに気をとられないように注意することが必要です。

患側下肢を一歩前へ

サイドスクワット

 スプリットスクワットと並行してサイドスクワットを開始します。運動時の注意点はスクワットと同じです。私は横への動きはほとんどのスポーツで要求されるうえ、膝が左右に振られるため再受傷のリスクとなりやすいと考えています。そのため、横方向への安定性向上(筋+神経系)目的で比較的早期からサイドスクワットを行っています。

ブルガリアスクワット

 スプリットスクワットが安定してきたらブルガリアンスクワットを行っていきます。ブルガリアンスクワットとはスプリットスクワットの後方の足を台に上げた姿勢で行うスクワットです。スプリットスクワットよりも負荷が高い運動で、私は片脚スクワットの前段階の運動として行っています。

片脚スクワット

 スプリットスクワットが安定して行えるようになったら片脚でのスクワットを行っていきます。片脚スクワットでは多くの場合、体幹が患側方向へ側屈し相対的にKnee inになりやすいため注意が必要です。

スケーティング

 サイドスクワットが安定したらスケーティングを行います。スケーティングを行う際には健側の足底にタオルを敷き、健側の下肢を横方向へスライドさせます。私は側方へ動かすのみの方法と、側方へ滑らせた姿勢で5~10秒間保持する方法の2種類行っています。

バックラン

 フロントスクワットが安定したらブルガリアンスクワットと並行してバックランジを行っています。私は加速度による負荷を考慮して前方へのランジの前にバックランジを行うようにしています。バックランジも運動の初期は後方への踏み込みではなく、まず最初に上述したスケーティングの要領で後方へ足を滑らせる感じで行い、動作が安定したら後方へ健側下肢を踏み込むようにしています。

健側下肢を後方へ踏み出す

レッグランジ

 バックランジが安定して行えるようになったら前方へのランジ(患側下肢を前方へ踏み込む)を行っていきます。この場合、前方への加速度が加わるためスプリットスクワットなどよりも難易度が上がりますレッグランジはスポーツ動作で前方への踏み込み時の安定性につながるため非常に需要な運動であると考えています。臨床で患者さんをみていてレッグランジを行う時には動作の不安定性からKnee in(体幹の患側への側屈によるものも含む)や重心の後方化が起こりやすいように感じます。そのため、動作が正確に行えているか常に第三者の目でチェックを入れる必要があります。

患側下肢を前方へ踏み出す

サイドランジ

 スケーティングが安定して行えるようになったらサイドランジを行っていきます。サイドランジは側方へのストップ動作や切り替えし、サイドステップ時の蹴りだしなどに必要な動きのため再受傷予防の観点から重要な運動です。

患側下肢を側方へ踏み出す

Knee Bent Walk(KBW)

 Knee Bent Walkとは簡単に言うと膝を曲げたスクワットの姿勢で歩くことです。Knee Bent Walkによって大殿筋や大腿四頭筋ハムストリングスなどを鍛えることができます。これまで書いたメニューが静的なものであるのに対しKnee Bent Walkは動的な筋力トレーニングになります。私はスクワットが安定して行えるようになったら他の運動と並行して行っています。

スクワットの姿勢を維持したまま歩く

おわりに

 今回は私が実際に臨床で行っているACL再建術後の筋力トレーニングを日頃行っている手順に沿って書いてみました。術後リハビリテーションの考え方としてはより負荷の低いものから高いものへ、動作としてより安定しているもの(静的なもの)から不安定なもの(動的なもの)へと進めていくのが原則です。この観点からCKCでの筋力トレーニングの進め方を書いたつもりですが、なかなかどの動作も完璧まで求めるとリハプログラムが滞ってしまうためいくつかを同時並行で行ったり、多少動作が不安定であってもPTの監視下に限って次へ進めたりしています。

 今回の記事が皆様のお役に立てたらと思います。もし、今回の記事が少しでもお役に立てましたらお知り合いの方にシェアしていただけたら幸いです。

スポーツ外傷を診るためには当然ですがスポーツ外傷の患者さんがいる病院に勤めておかなくてはいけません。『いつか・・・』と思っている方は今がその時だと思います。『案ずるより産むがやすし』です。勇気をもって一歩踏み出してみましょう。

自重トレーニングの参考に!

足底板(インソール)について

はじめに

 前回の投稿からずいぶん時間が経ってしまいましたが、今回は足底板(インソール)、特に私が臨床で用いている入谷式足底板について書きたいと思います。

足底板とは

 まず初めに、足底板とは靴の中敷きに凹凸を付け、人間の土台となる足の肢位や使い方に変化を与えるものです。靴の歴史が長いヨーロッパ諸国などではかなり古くから使用され発展してきました。

入谷式足底板とは

 入谷式足底板とは横浜にある「足と歩きの研究所」所長の『入谷 誠」先生が考案された足底板です。

入谷式足底板の考え方

 下肢障害の多くは小さなメカニカルストレスの繰り返しにより発生し、これが疼痛などの症状を引き起こす原因となっています。よって、このメカニカルストレスを減じることができればこれらの症状を軽減させることができます。唯一地面に接する足部は、その変化が身体重心、足圧中心、床反力ベクトルなどを変化させるために身体の姿勢や動作に影響を及ぼします。

 そこで、入谷式足底板はこれらの考え方を基に足から身体の姿勢や動作を変化させることにより、身体各関節のメカニカルストレスを減少させ、より効率的に身体動作を誘導するものです。

 このコンセプトから、入谷式足底板は単なる対症療法的な治療の範疇に留まらず、症状の根本原因を捉えてそれを改善させていくことができる可能性を持っているといえます。

入谷式足底板作成における特徴

 従来の足底板は足のみを診て作製されます。これは従来の足底板が足部アーチの低下を防いだり、フィット感を引きだしたりすることが目的であるためだと考えられます。そのため、多くの足底版は単に足形を採型したりしたり、既製のパッドを貼布して作製されてきました。

 これに対して、入谷式足底板の作製方法には以下のような特徴があります。

  1. テーピングやパッドを直接足に貼布し、足部関節肢位及び高さを決定する(直接的評価)
  2. 足底板作製や作製後の微調整は歩行動作を中心としたさまざまな動作を確認しながら行う
  3. 身体全体の動きを制御することを目的としているために、両側に作製することを基本とする

以下にこの3つについてもう少し詳しく説明します。

①テーピングやパッドを直接足に貼布し、足部関節肢位及び高さを決定する(直接的評価)

足には多くの関節があるため、入谷式足底板では足部の各関節をどの方向に、どの程度の量を誘導すれば目的とする身体誘導ができるかを必ず確認してから作成します。具体的には、テーピングやパッドを直接患者さんの足部に貼布し、各関節の誘導方向やアーチの持ち上げる量(高さ)を決めます。これを足底板作製のための直接評価といい、前述した従来の足底板作製時の手法と大きく異なる点です。

➁足底板作製や作製後の微調整は歩行動作を中心としたさまざまな動作を確認しながら行う

 入谷式足底板は足から身体の姿勢や動作を変化させることにより、身体各関節のメカニカルストレスを減少させ、より効率的な身体動作を誘導することを目的としている。そのため、足底板は作製や作製後の微調整は歩行などの動作を確認しながら行います。

 このことより、入谷式足底板の作製には動作分析の能力が必要となるためPT向きの手技といえるのではないでしょうか。

③身体全体の動きを制御することを目的としているために、両側に作製することを基本とする

 人間は骨盤から上にある体幹を左右両側の下肢で支えています。したがって、片側の下肢の状態が変化すると身体のバランスも変化し、姿勢や動作に影響を及ぼします。

 このことから、片側のみの足部操作では身体の姿勢や動作を誘導することは難しいと考えます。左右の足を操作することで、より効果的に身体の姿勢や動作を変化させることができます。そのため、入谷式足底板では片側性の障害においても両側に足底板を作成することを基本としています。

入谷式足底板の臨床応用

 入谷式足底板では、足から身体の姿勢や動作を誘導することを目的としているため、幅広く臨床応用することができます。入谷式足底板が臨床において応用できるものには以下のようなものがあります。

  1. 障害に対する臨床応用
  2. 運動連鎖を利用した臨床応用
  3. 姿勢制御に対する臨床応用
  4. 個々の足部機能を発揮させるための臨床応用
  5. 様々な運動特性を改善させるための臨床応用
  6. 靴の補正としての臨床応用

障害に対する臨床応用

 入谷式足底板は身体の姿勢や動作を誘導することで足部から障害局所のメカニカルストレスを軽減させることができるため、障害に対する治療手技として幅広く臨床応用することができます。

➁運動連鎖を利用した臨床応用

 入谷式足底板は運動連鎖を利用して足部からの遠隔操作によって身体各分節をコントロールすることができます。そのため、足部以外の身体各部位の肢位、関節運動、関節モーメントなどをコントロールでき、膝、股、体幹などの障害にも幅広く応用することができます。

③姿勢制御に対する臨床応用

 入谷式足底板は両側に作成することを基本としているため、両側から身体重心、足圧中心、床反力ベクトルなどをコントロールすることができます。これにより、静的及び動的な姿勢を効率よく制御することができます。

④姿勢制御に対する臨床応用

 入谷式足底板では直接的評価により足部の各関節をどのように誘導するかを詳細に決定するため、足部形態の改善につなげることができます。

⑤様々な運動特性を改善させるための臨床応用

 入谷式足底板では障害の治療だけでなく、様々な運動特性に対する応用が可能です。このため、麻痺性歩行やスポーツ動作の改善などに対しても幅広く応用することができます。

⑥靴の補正としての臨床応用

 入谷式足底板では靴ごとの特徴や欠点が身体の姿勢や動作に及ぼす影響を捉え、これを補正する役割もしているため、基本的にはどのタイプの靴にも作製することが可能です。

入谷式足底板は効くのか

 ここまで、「入谷式足底板がどのようなものか」について書いてきましたが、「入谷式足底板は効果があるのか?」について私の見解を述べたいと思います。とはいっても、入谷式足底板を手技として用いている私の意見にはバイアスがかかっていると感じるかたもいらっしゃると思いますが。

 入谷式足底板を作製していると標榜すると、よく他院のスタッフから「入谷式足底板を使っていても良くなっていない患者が来るけど、本当に良いの?」という疑問とも批判ともとれることを言われることがあります。

 この疑問(批判)に対する私の答えは「Yes(効果がある)」です。そもそも、入谷式足底板は手段です。入谷式足底板が良いか悪いかの二元論で話してくる人はそもそもその点で誤解があると思います。そのように考える方は「~法」や「~コンセプトの療法」のようなものを施術すると患者さんが良くなると思っている方ではないかと思います。

 入谷式足底板がすごいと感じる点は患者さん(対象者)の動きをPT(作製者)の意図する方向へ誘導することが可能である、という点です。例えば、立脚中期に膝を曲げる(or伸ばす)などが可能です。そうすると立脚中期に膝が伸びている(or曲がっている)ことによって痛みが生じている場合は症状が軽減すると思います。しかし、痛みがなぜ発生しているかがきちんと分析できていないと当然効果が出ません。

 入谷式足底板の研修では動きの流動性を中心に評価が進められます。そのため、痛みを引き起こす「組織」的観点からの評価が不十分になりがちです。そのため、入谷式足底板を中心に臨床を行ってきた人の中には「痛みは良くなるけど関節レベルで何が起こって良くなっているか分からない」という人も結構いるのではないかと思います。しかし、痛みの起こっているメカニズムの分析が不十分で「動きをどう持っていくかの狙い」が未熟である場合、動きをどんなにきれいに持って行っても痛みがとれないことがあります。これは私が実際に臨床の中で失敗してきた経験談でもあるのでおそらく間違いないと思います。この点に気づいてからは足底板に対する患者さんからの評価がぐっと上がり、多くのリピーターの方が来てくれるようになりました。

おわりに

 今回は入谷式足底板について書いてみました。私は新人の頃に入谷式足底板の考えに触れて衝撃を受けました。それは、足を引きずって入ってきた患者さんが帰りには普通に歩いて帰る、テレビの広告になりそうなことが目の前で起こっていたからです。そんな光景を目の当たりにして、衝撃を受けると同時に「自分も出来るようになりたい」と思うようになりました。それからウン十年、最近になってようやく「ちょっとはマシ」なものが作れるようになってきました。どんな手技でも同じだと思いますが、入谷式足底板は奥が深く、手技を身につけるまでには長い時間を要しますが勉強していて非常に楽しいです。もし入谷式足底板のコンセプトに興味が湧いたら何かの機会に触れてみてください。

引用・参考文献

1) 入谷式足底板 基礎編        著者 入谷 誠     運動と医学の出版社

 

 

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PRP(多血小板血漿)療法について

はじめに

 皆さんはPRP(Platelet-Rich Plasma)療法をご存じでしょうか。数年前から私の担当患者さんの中でも試される方が増えてきて、今年の春ごろから私の勤務する病院でも開始しました。PRPは現在、自費診療扱いとなるため一回の施行で20万円前後の費用が必要となります。ただ、私が担当している患者さんに限って言うと、高額な費用のわりに際立った効果を実感できる方がほとんどいないように感じます。そこで、今回はこのPRPの効果についてシステマティックレビューを基にその効果の是非について書いていきたいと思います。

PRPとは

 まず始めにPRP(多血小板血漿)療法とは、患者さんの血液中の血小板に含まれる成長因子等のたんぱく質の作用を利用した再生医療です。PRP中の成長因子などの作用により疾患のある部位の細胞を活性化し、患者さん自身の治癒能力を高め、膝の慢性痛などの難治性の症状の改善を導くことが期待されています。

PRPの効果

膝蓋腱炎に対して

 137例の4つの研究で、2つはPRPを注射した群と対象群として生理食塩を注射した群を比較したものでした。これによると、1年後のVASの値に有意差はみられませんでした。残りの2つの研究ではそれぞれ対外衝撃波(1年フォロー)、大容量画像誘導下での注射(6カ月フォロー)との比較を行ったものでしたがともに有意差は見られませんでした。

 これら4研究より膝蓋腱炎に対するPRPの有効性は証明されませんでした。また、ジャンパー膝に対しても効果が見られませんでした。

膝周囲筋の外傷に対して

 224症例の4つの研究で筋損傷後からのスポーツ復帰までの期間を調べています。全ての研究でPRPありorなしでのリハプログラムを比較していました。その結果、全ての研究で対象群と比較してPRP群の方がスポーツ復帰までの期間が短かったと報告されています。2つの研究ではスポーツ復帰までの期間に有意差を認め、残りの2つでは有意差はかなったもののPRP群の方が短かい結果となりました

 スポーツ復帰までの期間はPRP群で21~43日、コントロール群は25~45日となりました。

高位脛骨骨切り術(HTO)に対して

 2つのRCTでは80症例に対してHTOも補助としてPRP使用の効果を調査していました。kohらは関節鏡視下でPRPを注入し、その後HTOを施行しました。この研究では2年間のフォローアップの間、間葉幹細胞(MSC)を加えることでKOOSとVASに有意差を認めました

 プレート除去時の関節鏡視下ではPRP+MSCグループで軟骨治癒に関して有意差を認めました

TKAに対して

 計621症例の6つRCT研究では、TKAの補助としてPRPの使用に有効性が検討されました。3つの研究では創傷の露出した表面に血小板ゲルをスプレーし、残りの3研究では関節にPRPを注入しました。これらの研究の目的はTKA後の潜在的な失血を評価することでした。ヘモグロビンの低下は6つの研究全てで優位に少なく、2研究ではPRP群で失血が少ないと報告されました。

 4研究で手術後の短期間、PRP群のVASの値が有意に低くなっていました。ただし、長期的なフォローアップでは効果は確認されませんでした。

 機能的な結果では、3研究がWOMACで、他の研究ではKOOSとKSSで評価されましたが、PRP群とコントロール群で有意な差は見られませんでした。また、関節可動域についても群間で有意差は見られませんでした。

関節鏡視下検査治療に対して

 計199症例の4つのRCTと3つの前向きコホート研究により軟骨及び半月板病理学の関節鏡視検査治療の補助としてPRPの有用性を評価しました。このうち2つの研究はKellgren and Lawrence(KL)分類でOAと診断される患者(半月板損傷を伴う)を、残りの2つの研究はOuterbridge分類でグレードⅢ~Ⅳの軟骨損傷のある患者とKL分類でⅠ~Ⅱの早期OA患者を対象としていました。また、このうち5つの研究ではPRPは手術中に施行され、残りの2つの研究では術後に施行されました。

 2つの研究はWOMACで機能的効果を評価しており、そのうちの1つでは18カ月の期間でPRP使用群がコントロール群と比較して有意な効果がみられましたが、ヒアルロン酸の注射はPRPよりも効果が高いと報告されました

 また、international Knee Documentation Committee(IKDC)を用いて機能的効果を評価された4つの研究ではPRP群に有意な効果が見られました。さらに、2つの研究ではSF36でPRP群がコントロール群と比べて良い結果が得られましたが有意差は見られませんでした。機能的効果についてはLysholmスコアを用いて3つの研究がなされましたがいずれも有意な差は見られませんでした。

 3つのランダム化された研究と2つのコホート研究ではVASを用いた痛みの評価がなされました。そのうち関節鏡視下微小骨折に対してPRPを実施した2つの研究では痛みの強さにおいてPRP群が有意に弱かったとされています。しかし、2つのコホート研究では有意差は見られませんでした。微小骨折のない関節鏡検査治療ではPRPで痛みのレベルが低い傾向にはありましたが有意差は見られませんでした。

ACL再建術に対して

 計740症例の16の研究では骨付き膝蓋腱及びハムストリングス腱を用いたACL再建術の補助としてPRPの有用性を評価しました。

 5つの研究ではVASを用いた疼痛評価を行っており、全体的な効果としてはPRP群とコントロール群に有意な差は見られませんでした。しかし、2つの研究ではごく短い期間においてPRP群の方が有意にVASの値が低い結果となりました。7つの研究ではInternational Knee Documentation Committee(IKDC)を用いて機能評価を行いましたが、4つの研究においてのみ合成を示すデータを示しましたが有意差はありませんでした。the Lysholm Scoreによる機能評価を行った4つの研究でも有意差なしという結果でした。5つの研究ではactivity評価としてTegnerスコアーを用いましたが全てでPRP群に有意な効果は見られませんでした(1つの研究は機能的結果が報告されませんでした)。

 6つの研究で前方引き出し量にPRP群とコントロール群で有意な差は見られなかったと報告しており、1つの研究でのみKT-1000を用いた評価で有意差を認めたと報告しています。

 5つの研究でグラフとの固定後に骨孔の拡大について報告していますがその全てでPRP群とコントロール群で有意な差は見られなかったとしています。

 8つの研究で大腿骨もしくは脛骨でのグラフとの定着度について評価しています。評価方法の内訳は、6研究がMRIで、1つはCTを用いて、そしてもう1つは組織学的パラメータを用いて行われました。これによると、3つの研究ではPRP群の方が有意に早く移植腱がリモデリングを起こしたと報告しており、残りの4つの研究では有意な差は見られませんでした。                 (あと1つはどこに行ったんだろう・・・)

半月板の修復に対して

 2つのRCTと5つのnon-RCTの計7つの研究で半月板損傷修復術後のPRPの有用性について検討が行われた。5つの研究では関節鏡視下で、1つはOpenで、もう一つは骨穿孔開窓法でPRP使用有無の評価をされた。

 6つの研究では半月板治癒の失敗を報告しており、残りの2つのRCT研究と4つのnon-RCT研究ではMRIと二回目の関節鏡視下においてPRP使用群に有意に治癒がみられた。3つの研究では失敗の定義を再手術の必要とMRIを用いた半月板治癒具合としている。

 5つの研究でIKDCスコアを用いて機能評価を行っている。これらの研究においてPRP群とコントロール群に有意な差は見られなかった。ただ、これらは医学的な治療方法のバラエティーが多すぎてデータのばらつきが大きいためmeta-analysisiを用いたRCT研究のが必要だと考えられます。

変形性関節症

 2962例、38の研究で変形性関節症の治療におけるPRPの有用性を検討しています。33の研究ではレントゲンでのKellgren-Laurence分類を用いており、5つの研究ではAhlback分類で評価されていた。フォローアップ期間は6カ月~2年でした。

 28の研究ではPRP群とコントロール群を比較したものでした。内訳として、5つはPRPと他の物質とコントロール群を比較しており、3つはPRPとPRG-Endoretとコントロール群を比較、2つはACP(PRPの一種)とコントロール群を比較、1つは骨内に注射する場合と関節内に注射する場合とコントロール群を比較したものでした。そして、23の研究ではコントロール群としてヒアルロン酸が用いられ、4つの研究ではコルチコステロイドがコントロール群として用いられ、2つの研究でアセトアミノフェンが用いられていました。

 33の研究でメタアナリシスによるもので、5つは非盲検だったため除外されました。

 23の研究はVASを用いてPRP群とプラセボ群、コルチコステロイド群、ヒアルロン酸群を比較したものでした。これによると、プラセボ群とヒアルロン酸を用いた群に対してはPRP群が有意に優れていたものの、ステロイド群とは有意な差が見られませんでした。また、PRP1回注射と複数回の注射では有意に複数回注射の群が優れており、1回と比較して3回注射群が有意に効果が高かったとしています。

 28の研究で機能的評価はWOMACスコアを用いて行われ、1つの研究ではWOMAC Painスコアのみを用いて評価されました。25の研究はPRP群とプラセボ群、コルチコステロイド群、ヒアルロン酸群を比較しました。これらより得られたデータではPRP群で有意に優れた結果を示しました。また、PRP注射の回数の比較では1回注射群と比べて3回注射群が有意に高い効果を示しました。

 6つの研究ではIKDCを用いて機能的評価を行い、PRP群が有意に高い結果を示しました。また、5つの研究ヒアルロン酸と比べてPRP群が有意に優れており、2つの研究ではプラセボ群と比べて有意な差は見られませんでした。

 8つの研究ではKOOSスコアで関節炎の評価が行われました(これらのうちの2つは測定不足のため除外しました)。得られた結果より、KOOS評価のスポーツ、QOL、ADLの項目で有意な差を示さず、症状と痛みの項目ではコントロール群で有意に高かったとされました。

 機能評価は1つの研究ではKSSで、2つの研究ではLysholmで、4つの研究ではTegnerで行われ、痛みは3つの研究ではOMERACT-OARSIで測定が行われ、5つがLequesneスコアでなされました。また、QOLの評価は5つの研究ではSF-36で行われ、2つの研究はSF-12で、他の2つの研究はEQoLで行われた。有意な改善はすべてのKSSとLysholmスコアと、Lequesneスコアを用いた5つのうちの3つ、OMERACT-OARSIスコアを用いた3研究中の1つで見られました。Tegnerスコアにおいては全研究で有意差は見られませんでした。

 26研究で有害な事象が起こりましたが、PRP vsプラセボ 、PRP vs ヒアルロン酸 、PRP vs ステロイド 、PRP vs MSCでPRP群とコントロール群で有意な差を認めませんでした。

おわりに

 今回はPRPの効果の有無についてシステマティックレビューを基にまとめてみました。私が国内の文献を調べた限りでは(無償のもののみです)PRPの効果の有無は半々ぐらいで、効果ありとしているものも半月板の再生の可能性にのみ触れており、関節軟骨への修復に言及しているものは見当たりませんでした。一方、私の患者さんたちは『軟骨が再生する』と思って実施している方がほとんどでした。このギャップを説明するのがすごく大変です。また、仮にPRPが半月板を再生する可能性があると仮定して同のような機序でOA患者さんの痛みが軽減するのか(OA患者の痛みの原因の多くは膝蓋下脂肪体など関節外に原因があると思われるので)、このあたりが私自身の中で納得できていません。そのため、今後臨床での患者さんの反応をしっかり評価しながら、もし何か分かったら第2弾としてこのブログに書いていきたいと思います。

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参考文献

The Clinical Use of Platelet-Rich Plasma in Knee Disorders and Surgery ~A Systematic Review and Meta-Analysis~

 筆者  Ewa Trams, Krzysztof Kulinski ら

 

 

五十肩の理学療法➁~理学療法のすすめ方~

はじめに

 前回、五十肩の患者さんに対する病期別の対応方法を書きました。今回は五十肩の患者さんがリハ室に来られてからの実際の流れ(進め方)について書いていきたいと思います。

理学療法のすすめ方

 まず、五十肩の理学療法を進めていくにあたって前回記載した病期を把握していくことはmustです。病期を間違えて理学療法を進めていくとかえって症状を悪化させ患者さんからの信頼も失います。自信のない方は前回の記事(五十肩のリハビリ~病期別の考え方~)をまず読んでおいてください。

問診

 これも、以前に書いた記事の中で既に書いていることですが、保存療法を行っていくにあたって『問診』は非常に重要です。この段階でどのくらいの情報を引き出せるかでその後の理学療法の進め方・考え方が大きく変わってきます。問診は一見簡単そうに見えますが、実際は経験値を必要とするある種の技術だと思います。問診については以前「クリニックでの患者の診かた」でも書いていますが、以下のようなことを聴いていきます。

  • いつから痛いか
  • 痛みが出た原因があるか
  • 痛みが出てからの治療歴
  • どこが痛いか
  • どんな時に痛いか
  • どのような痛みか
  • どうするといたみが和らぐか
  • 既往歴
  • 仕事をしていればどのような仕事か
  • 趣味で何か活動しているか

 この項目の中で『いつから痛いか』や『痛みが出た原因があるか』は患者さんもかなり曖昧ではっきりしないことが多く、これが病期の判断を難しくします。また、病院に来た時点ですでに痛みが出て数カ月が経っていることも多く、これがどの病期か教科書的な判断と異なるため臨床の難しさを感じます。

理学療法評価

 問診で現在の状態(病期や外傷性か非外傷性か等)を把握したら、続いて理学療法評価を行っていきます。

関節可動域

 五十肩で受診される患者さんの主訴のほとんどは『痛み』『関節可動域制限』です。PTにとっては基本中の基本ですが、患者さんのADLやAPDL上の問題と大きくかかわるため、また、理学療法の効果を客観的に把握するために必要な評価です。

 山口1)は、「一般に用いられる可動域の計測は、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会の定める計測法に準じて測定されるが、あくまでも肩関節複合体としての評価であることを認識すべきであり、肩甲上腕関節の評価ではない。簡易的な肩甲上腕関節の計測としては立花らが報告する肩甲棘に対する上腕骨長軸とのなす角度が代表的である」としています。

 つまり、肩の可動域を測定する場合は、肩関節複合体の可動域を測定しているのか肩甲上腕関節の可動域を測定しているのかを明確にイメージしながら行うことが大切だということです。

抵抗テスト

 続いて、どこが痛いか?を調べていきます。 

 私は、まず、外転抵抗テストで腱板のどこに痛みがあるかをざっくりみます。方法は、山口 光國先生が著書で書かれている方法で行っています。具体的には以下の通りです。

 『矢状面』、『scapular plane』、『前額面上』それぞれで挙上テストを行い、責任病巣を推測します。

  • 矢状面で疼痛(+)、scapular plane上で(±)、前額面上で(-) ⇒ 肩甲下筋
  • 矢状面で疼痛(+)、scapular plane上で(+)、前額面上で(+) ⇒ 棘上筋・全腱板機能
  • 矢状面で疼痛(-)、scapular plane上で(±)、前額面上で(+) ⇒ 棘下筋・小円筋

 これに加えて、『肩のスペシャルテスト』を行い、責任病巣を絞り込んでいきます。肩のスペシャルテストについては以前、このブログで書いた『肩関節スペシャルテスト』を読んでください。

 また、肩甲骨の不安定性と体幹の不安定性が疼痛に影響しているかについては、肩の挙上テストを行う際に肩甲骨と体幹をそれぞれ検者の手で固定した状態で検査し、その結果が

  • 肩甲骨を固定した状態で筋出力がUpし、疼痛が軽減  ⇒  肩甲骨の不安定性が関与
  • 肩甲骨を固定した状態で筋出力がdown or 変化なし、疼痛が増悪  ⇒肩甲帯以外の問題を肩甲帯が代償している

と考えています(体幹の場合も同様)。これは文章だけ読んでもイメージがつきにくい方が多いと思いますので写真を載せておきます(私がそうでした。肩甲骨固定ってどうやるの ( ゚Д゚) って感じでした)。

肩甲骨を固定しながら上腕部に抵抗をかける

検者の左手で体幹部を固定しながら右手で上腕部に抵抗をかける

 

抵抗テストを行うと1つだけのテストで陽性になる患者さんは少なく、多くの方は複数のテストで陽性になることを経験します。炎症は複数の組織へ広がっていくそうなのでこういうことが起こるんでしょうか。

理学療法

 理学療法は『関節可動域訓練』と『筋力レーニン』が主になると思います。

関節可動域訓練

 関節可動域訓練を行うにあたって、前提の知識として『scapular plane』と全腱板・関節包のつり合いの肢位を知っておく必要があると思います。

 まず、 scapular plane とは前額面と肩甲骨のなす角度でおおよそ前額面に対して30°の位置です。これは、肩甲骨が円筒状の胸郭上に位置しているためのものです。

 次に、 全腱板・関節包のつり合いの肢位 ですが、これは scapular plane 上、肩甲上腕関節角度20~30°付近と言われています。一般に生体では自動・他動に関わらず、上腕の動きに伴い肩甲骨の運動が生じるため、肩甲上腕関節角20~30°付近は、上腕の挙上角45°付近に当たります( scapular45°)。この位置から挙上では下方の線維が、下制では上方の線維が、水平内転では後方の組織が、水平外転では前方の組織が伸長され制限因子として働きます。

 これらの考えと、評価時に絞り込んでおいた責任組織を合わせて総合的に考えながら関節可動域訓練を進めていきます。

 注意点としては、前回のブログにも書きましたが肩関節の理学療法を行っていく際には『病期』を意識しながら進めていく必要があります。「疼痛期」や「拘縮期」に強い痛みを与えるような関節可動域訓練を行うことはかえって病状を悪化させてしまう恐れがあるので注意しましょう。

筋力トレーニン

 肩関節疾患の筋力トレーニングとしてはcuff exercise によりインナーマッスルレーニングが有名です。これはすごく有名なので具体的方法は割愛させていただきますが、注意点は肩内外旋の時に中間位より外側にもっていかないことです。中間位より外側にもっていくと肩甲骨が動き始めます。肩のインナーマッスルは肩甲骨と上腕骨を結ぶ単関節筋ですから、土台部分が動いてしますと起始と停止の間の収縮運動ができなくなりますよね。そのため、運動効果が十分に得られなくなるので注意が必要です。あと、私は棘上筋のトレーニングの時には肩甲骨面上で行うようにしています。

内外旋中間位より外に持っていかない

おわりに

 今回は、前回の基礎に続いて私が実際に臨床で行っている手順に沿った五十肩の理学療法のすすめ方について書いてみました。肩関節疾患の理学療法は大変奥が深くそれに特化した理学療法士の方もたくさんいらっしゃいます。私は、以前、兵庫県の信原病院での研修に参加させていただきました。その際にスタッフの方と少しお話させていただいたのですが、その知識の広さと深さに「すごいな~」と感心しました。肩は奥が深い!私自身ももっと勉強していかなくては✊と思います。

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参考文献

1)投球障害方こう診てこう治せ    筒井 寛明  山口 光國 著   MEDICAL VIEW社

2)結果の出せる整形外科理学療法  山口 光國  福井 勉  入谷 誠 著  MEDICAL VIEW社    

五十肩(基礎)のリハビリ~病期別考え方~

はじめに

 今回は五十肩(肩関節周囲炎)のリハビリについて書きたいと思います。肩のリハビリは奥が深く、書こうと思ったら膨大な量になりそうなので今回はまず肩関節周囲炎のリハビリの基礎について書いていきたいと思います。今回は初学者向けの内容となります。

肩関節疾患の中でも五十肩に特化して書いてある本です。肩関節疾患は幅が広いので五十肩について知りたければまず本書を読んでみると良いと思います。

五十肩の評価と運動療法 あなたも必ず治せるようになる! (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ) [ 土屋元明 ]

五十肩とは

 信原病院の信原先生によると「いわゆる五十肩というのは、50歳代を中心としてその年配に多発する肩関節の痛みと運動制限を主徴とする症候群に与えられた名称である。」と定義されています。本邦で五十肩と呼ばれている病態は1872年にフランスのDUPLAYが報告した肩関節周囲炎、1934年米国のCODMANの述べたfrozen shoulderなどと同じ医学上の病態を指しており、小田(1966)もこれが肩関節周囲炎と本質的に異ならないと考え、現在は五十肩ではなく肩関節周囲炎が診断名とされています。

 現在では『五十肩=肩関節周囲炎』と当然のように思ってしまいますが、信原先生の著書を読んでいると「こんな経緯で現在があるんだな~」と感心します。

 また、赤羽先生の書籍によると「五十肩は男女を問わず40~50代で好発する、肩関節周辺の痛みと可動域制限を認める疾患で、原因は明らかになっていない。定義上、五十肩は6カ月~2年以内に自然治癒する疾患とされ、症状が治まることで初めて五十肩が原因だったと定義される」とされている。

*肩関節周囲炎は幅を持った診断名で五十肩はそのうちの一つです。肩関節周囲炎には他にも肩関節腱板炎や烏口突起炎、上腕二頭筋長頭腱炎なども含まれます。

五十肩の病期

 五十肩の特徴として、病期により症状が異なるという点が挙げられる。肩関節周辺の組織に急性炎症を認め症状が強い「疼痛期」、炎症が軽減してくるが肩関節周辺の組織が硬くなる「拘縮期」、可動域制限が徐々に緩解してくる「緩解期」がある。

疼痛期

 疼痛期は炎症により腱板や肩峰下滑液包、上腕二頭筋長頭腱といった肩関節周辺の組織に主張が認められ、組織損傷を伴っていることが多々あります。また、関節包にも炎症が波及することがあります。

 この時期はとにかく痛みが強く、安静時痛や夜間時痛が見られます。この時期の関節可動域制限は疼痛に対する身体の防御反応です。そのため、この時期は安静が基本です。

 赤羽によると疼痛期の期間は1ヵ月以内とされています。

拘縮期

  拘縮期は腫脹が軽減し、損傷した組織が回復する時期となる。この時期は、腱板が癒着しやすく、腱板と肩峰下滑液包の滑走性が失われることが多い。また、関節包が肥厚するのもこの時期である。

 赤羽によると拘縮期の期間は1~3ヵ月とされています。

 この時期の可動域訓練は薬などで疼痛コントロールを行いながらmildに行うと良いと思います。

緩解

 緩解期は関節可動域制限が徐々に改善してくる時期です。損傷した組織が修復される時期であるため、腱板や肩峰下滑液包の滑りや関節包の広がりが本来の機能を取り戻します。

 赤羽によると緩解期は3ヵ月以上とされています。

五十肩の理学療法

 五十肩の理学療法においては病期を把握し、それに合わせて進めることが重要となります。

疼痛期における理学療法

 この時期の理学療法の目的は炎症を速やかに治めることであり、疼痛が誘発される動作はすべて避け、患部の安静を保つことが大切です。

 この時期は、炎症に対する脊髄反射によって肩関節周囲の筋緊張が高くなり、筋攣縮が起こっています。また、炎症は関節内圧を陽圧化し、関節を不安定にします。

 これは理学療法全般に言えることですが、炎症性の痛みに対して運動療法はほとんど効果がなく、かえって症状を悪化させることがあります。そのため、この時期の理学療法としてはポジショニングや肩甲帯の愛護的なマッサージ、炎症を助長しないようなADL指導などが適切であると思います。また、この時期はDr.による注射などの薬物療法などが治療の中心になると思います。

拘縮期の理学療法

 拘縮期は炎症の回復過程で、破綻された軟部組織を中心に肉が組織によって瘢痕化するため線維化癒着が起こります。

 この時期の強い物理刺激は修復過程を阻害し、かえって修復期間を延長させてしまう可能性があります。そのため、この時期の治療は痛みを伴わない範囲で行うことがたいせつです。

 赤羽は「この時期は可動域を拡大するというよりはむしろ可動域の減少を最小限に食い止めることが大切となる」としています。

 この時期の運動療法は肩甲胸郭関節に対してが主で、肩甲上腕関節に対しては愛護的に行います。また、日常生活動作においては肩甲骨面上での動きを中心にすると痛みが少なく実施可能であることが多いです。

緩解期の理学療法

 この時期は肩甲上腕関節の可動域を改善させるため、治療では線維化して伸びなくなった組織を伸長させることや、癒着して滑らなくなった組織を滑走させることが重要となります。

 赤羽は可動域改善のポイントを「肩関節の挙上角度が90°を超えるためには第1肢位(ファーストプレーン)での外旋角度が20°以上必要となる。また、挙上角度が150°を超えるためには第2肢位(セカンドプレーン)での外旋角度が90°第三肢位(サードプレーン)での内旋角度が0°以上必要となる。」としています。

日本においてはもはや『肩の神様』である信原克哉先生の著書です。肩を極めていこうと考えている理学療法士には一度は必ず読んでいてほしい書籍です。

肩第4版 その機能と臨床 [ 信原克哉 ]

おわりに

 五十肩の理学療法について書こうと決めたとき、書くことが多すぎて何から書こう・・・と悩みました。まとめていくのが難しい。そのため、今回はまず第一段として病期に合わせて進めていくべき理学療法について書いてみました。

 こんなの当然でしょって思っていても、今回、ブログを書くために書籍を改めて読み返してみると「へぇ~そうなんだ」と思うところが多々あって勉強になりました。

 肩については今後、少しずつまとめながら記事にしていきたいと思います。

 今回の記事が皆さんの臨床に少しでもお役に立てたと思います。もし、お役に立てたらお知り合いの方にシェアしていただけると嬉しいです。よろしくお願いいたします。

多くの自分とは異なる考え方に触れることが「自分にしかできない」を発見する近道だと思います。

参考文献

1)肩その機能と臨床 第3版         信原 克哉 著    医学書

2)五十肩の評価と運動療法         赤羽根 良和 著   運動と医学の出版社

3)肩関節拘縮の評価と運動療法       赤羽根 良和 著   運動と医学の出版社

五十肩にほぼ必発&理学療法のメインターゲットとなる拘縮について評価方法と対処方法を書いてある書籍です。運動器エコーで有名な林 典雄先生が監修をされている書籍です。

肩関節拘縮の評価と運動療法 臨床編 (運動と医学の出版社の臨床家シリーズ) [ 林典雄 ]

 

スポーツ障害に対する保存的理学療法の考え方

はじめに

 今回は、スポーツ障害患者の理学療法を行うにあたって必要不可欠な考え方である関節モーメントを応用した理学療法のすすめ方書いていきたいと思います。

関節モーメントとは

 まず、モーメントとは物体が回転しようとする力(回転力)のことであり、トルクとも呼ばれ以下の式で表される。

 モーメント(M)=力(N)×距離(m)

 関節モーメントとは筋張力などにより関節を回転させる作用のことである。言葉で伝えても分かりにくいため以下の図を見て下さい。

 まっすぐ立てた棒(A)を少し傾けると棒は倒れそうになりますよね(B)。この時、棒を倒そうとする力G(厳密にいうと力ではないのですがイメージしやすくするために「力」とします)が発生します。わかりにくい方は棒状のものを傾けてみてください。そうすると倒れますよね?倒れない人は地球上でないどこかで試しているのだと思います(笑)。これが外的モーメントです。この時、この棒を倒さないためにはどうしたらよいでしょうか?反対側から同じ強さで引っ張ればいいですよね?この倒れそうな棒を倒れないように止めておく力R(これも厳密には「力」ではありません)、これを内部モーメントといいます。

 イメージできたでしょうか?

 この棒をヒトに置き換えると、例えばヒトが歩くときには基底面から質量中心(大体は上半身の)をずらすことで移動します。この時、体が前に傾いたときに上の図でいうGがモーメントとして作用するわけですが、同時にRというモーメントがないと前方へ倒れてしまいます。つまり、動作時の姿勢を保持するためにはGと体の各関節レベルでRの合計が必ずつりあった状態でいることが必要なのです。

 この時のGは身体の質量により生み出されるモーメントで、Rは主ににより生み出されるモーメントです。

 そして、この時の筋の収縮様式は遠心性収縮です。ここがポイントです。筋は動的な姿勢を保持する時には遠心性収縮で体を支えています。

関節にかかるモーメントをイメージする

 次に実際に関節にかかるモーメントを写真で見てみましょう。

図1

 図1の写真は上記の棒の絵を人間に置き換えたものです。この場合Gは上半身の質量ですね。イメージして下さい。体を前に傾けると上半身の重さで前に倒れていきそうになるはずです。ここで、倒れないようにする力R(体を止めておく力)は下腿三頭筋の遠心性収縮によるものです。どうですか?イメージできますか?

図2

 

 続いて図2の写真の場合、上半身が前方へ倒れこまないように止めているのはどこでしょうか?この場合、主には殿筋がその役割を担っていると考えられます。図1との違いは膝を曲げることによってGの位置が足関節の真上に来ていることがポイントです。一番最初に書いている通り、モーメントは力×距離で求められるためGの位置のほぼ真下にある足関節は距離がほぼ0になりますからモーメントは発生しません。また、膝の伸展モーメントもGの位置によっては働きそうですが、今回の場合はGからの距離が最も遠い殿筋に大きな内部モーメントRが発生していると考えられます。

 ここで、上半身を倒そうとする力Gの位置ですが、これは上半身の質量中心(大体Th7くらい)の位置です。動作分析をするときにはこの部位がどこに位置しているかを確認しながら行っていくと良いのではないかと思います。

臨床に応用する

図3

 臨床応用の例として膝蓋腱炎を考えてみます。臨床での経験上、膝蓋腱炎の患者さんの場合、図3の写真(左下肢)のように踵重心で上半身の質量中心が膝の後方へ位置していることが多いと考えています。先ほどのモーメントの考え方を当てはめて考えてみるとTh7辺りから垂線を下ろしてGの位置を考えると、今回の場合は上半身が後方へ倒れこもうとします。そのため、これを阻止するためには膝の前面(膝の伸展機構)の遠心性収縮による内部モーメントを発生させることによって姿勢の保持をします。そのため、膝の前面にある膝蓋腱に過用による痛みが発生し、遠心性収縮を要求され続ける大腿四頭筋は硬くなります。

 書籍や文献によく膝蓋腱炎の患者さんは大腿四頭筋が硬いからストレッチしましょうと書いてあるのを読んだことありませんか?それはこういう理由です。

図4

 なので、今回のブログをここまで読んでいただいた方であればストレッチだけではだめだと理解できると思いますが、柔らかくして、かつ、動作中の上半身の質量中心をできるだけ前方に持ってこられる(図4)ようにしなければ症状はとりきれないと思います。ここからが理学療法は面白いです。何が原因で重心が後方化しているのか?前方化させるためには何をするか(どんな手技を用いるか)?自分の持っている武器は何か?自分に足りない武器は何か?こういうことを考え始めたら目的意識がはっきりしますから勉強していても楽しくなってきます。

おわりに

 今回は関節モーメントについてできるだけ簡略化してわかりやすく書いてみました。専門の書籍だとこれに床反力の話などが加わって理解するのに疲れるのでそういう話はとっぱらって書いてみました。もし、今回の記事を読んでも分かりにくい方はとにかく自分の体を使ってイメージしてみて下さい。体を傾けたときどこに力が入るか。傾けた状態で質量中心の位置(上半身の位置)を前後に移動させたときに力の入る位置がどう変わるか。これが解ってくると臨床の能力が格段に上がってくるし、理学療法が楽しくなってくると思います。是非、試してみてください。

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参考文献

1)結果の出せる理学療法-運動連鎖から全身をみる   山口 光國  福井 勉  入谷 誠

2)入谷誠の理学療法 評価と治療の実際        入谷 誠  園部 俊晴

3)ペリー歩行分析原著第2版正常歩行と異常歩行    Jacquelin Perry