ある理学療法士のブログ

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ウォーキングは良い運動か?

はじめに

 みなさんは患者さんに「最近、筋力をつけるためにウォーキングをやってます!(^^)!」ということを言われたことはありますか?私は結構頻繁に言われます。最近はそうでもないですが、数年前まではウォーキング最強説的な雰囲気が世の中にあったような気がしていて、あちこちの病院で患者さんが「とにかく歩きなさい」と指導を受けたと言っていました。

 でも、私はPTとしてウォーキングって実際どの程度運動になっているか疑問がありました。

 そこで、今回はウォーキングが実際体にどのような効果をもたらしているのかについて書いてみたいと思います。

「歩く」とは

 歩行は「姿勢の安定を維持しながら下肢運動を何度も繰り返すことにより同時に身体を前進させる運動である」。また、歩行は「随意的要素と反射的要素が加わり、バランスを失って再び元に戻る現象である」と定義することができます。

ウォーキングの効果

 ウォーキングには以下のような効果が期待できます。

  • 心肺機能が向上する
  • 血管を丈夫にする
  • 骨を丈夫にする
  • 生活習慣病を予防する
  • 脳を活性化する
  • 疲れにくい体を作る
  • 下肢や腰の筋力が強化される
  • ストレスを解消する

ウォーキングと下肢筋力

ウォーキングで下肢筋力は向上するのか?

 ウォーキングで得られる効果の中に「下肢や腰の筋力が強化される」という項目が入っていますが、この点について私は疑問があります。

 村田ら1)や新井2)の研究によると6m歩行距離や最大10m歩行速度などにはウォーキングによる効果がみられるものの、共に下肢筋力には有意な影響は得られなかったとされています。また、その他の論文を検索した結果も歩幅や歩行速度には影響が見られたものの下肢筋力に効果があるとされているものはほとんどみられませんでした。

 これはなぜでしょうか?

 それは、歩行が『効率的運動』であり、筋力トレーニングを目的とする時『非効率的運動』だからです。

 これはどういうことか?

 つまり、筋力を強くするためには負荷が必要ですが歩行は低負荷であるため筋力を強くするのには向いてないということです。なぜならば、人間は生物である以上エネルギーをできるだけ使わないように生きています。無駄なエネルギーをジャンジャン使っていたら早死にしてしまいますから。近くの店に歩いて買い物に行ったら人がばたばた・・・。なんてことになってしまうかもしれません。でも、実際はそうはなっていません。それは歩行が省エネで行えるようプログラムされた自動運動となっているからです。

 このような理由から歩行は下肢筋力を強くするための運動には向いていないと思うのです。

下肢筋力に有意な効果はみられない

 ウォーキングが身体機能にどのような影響を及ぼすかについて書かれた複数の論文で「最大努力での10m歩行速度や6分間歩行距離は改善するものの、下肢筋力やバランス能力には有意な変化はみられなかった」とされています。

 ちなみに、これらの論文ではウォーキングによって改善がみられる他の項目には「主観的健康観」や「生活満足度」、「生きがい感」、「人間関係に対する満足度」などに有意な改善がみられたと報告されてました。

 この他にもいくつか論文を検索したのですが、そのうちの多くが心理的面に関するものでした。

 これらのことより、ウォーキングの効果として下肢筋力の向上はあまり期待できないのではないかと思います。

ウォーキングで筋力を鍛えるには

 それでもウォーキングで筋力をつけたい人は歩幅を広げて歩行速度を上げて歩けばよいと思います。上述の通り、自由歩行速度では運動効率が高められた状態であるため運動には適しません。

 ではどうするか?

 あえて運動効率の悪い歩き方をすればよいのです。歩行速度を上げることで下肢筋の筋活動量が増加することが報告されています。

 ただし、非効率な歩行運動へ切り替えるため重心の左右動揺が増加したり下肢関節の不安定性が増加する危険性があるため下肢関節疾患の患者さんへはお勧めできないと思います。

ポールウォーキング

 下肢関節疾患の患者さんがウォーキングを行う場合はポールウォーキングがお勧めです。

 ポールウォーキングとはその名の通り2本のポールを使って行う歩行で、冨岡3)は歩行時にポールを体の後方に突き推進力を得ようとするノルディックウォーキングとポールを身体前方に突く四点支持型のポールウォーキングに分けられるとしています。

 先行研究によるとポールウォーキングを行うことによって歩行中の左右の動揺と膝関節の内反モーメントが小さくなり足関節が背屈し足先が高く上がるということが示唆されています。

 また、加藤4)らの研究によるとウォーキングポールを使うことによって

のような効果が期待できるとされています。

歩行中の左右の動揺と膝関節の内反モーメントが小さくなるという点は膝の不安定性⇒軟骨のすり減り(融解)という膝OAの進行機序を考えると杖なしでのウォーキングよりは良いと考えられます。

ウォーキングで認知症予防

 ウォーキングをすることで認知症が予防できるのか?

 答えは、「できる」そうです。 

 海馬(記憶に関する部位)は65歳になると1年に1%程度委縮すという報告がありますが、有酸素運動や筋力トレーニングをすることにより海馬の神経細胞が増加することがわかっています。

 例えば、高齢者に速歩を週3回、1回40分、1年間実施したところ、海馬で新しい神経細胞が生まれやすくなり、海馬が1~2%大きくなったと報告されています。

 現時点では継続的なウォーキングやゲーム要素を取り入れた運動のみが科学的根拠により認知症を予防する可能性があるとされています。

 運動するとBDNF(脳由来性神経栄養因子)が多く分泌され、新たな神経細胞が生み出されたり神経細胞ネットワークが強化されると考えられています。

<プログラム例>

  1. 1日の生活歩数7000~8000歩を週5回
  2. 1日の合計30分の早歩きを週3回以上
  3. デュアル・タスク(二重課題)の実施

*デュアル・タスクとは運動をしながら脳を使うこと。例えば、ウォーキングしながら100から3をひくような計算やしりとりをするような運動です。デュアル・タスクにより、脳の萎縮を抑制し脳機能の維持に役立つとされています。

ウォーキングで生活習慣病予防する

 糖尿や高血圧などの生活習慣病を予防する目的でウォーキングを行っている方も多くいらっしゃると思います。

 生活習慣病を予防するためには3METs(メッツ)以上の強度の身体活動・運動を1日60分、1週間に23Ex(エクササイズ)以上行うことが必要とされています。

 ここで、METsとはMetabolic equivalentsの略で、活動・運動を行った時に安静状態の何倍の代謝(カロリー消費)をしているかを表している。例えば、歩く(近所の散歩)は2.5METsだが、これは安静時の2.5倍の代謝(カロリー消費)となる。

 METsから消費カロリーを計算するには

 消費カロリー(Kcal)=1.05 × メッツ × 時間 × 体重(Kg)

の簡易計算を使って計算することができる。

【例 散歩:2.5METsの運動を1時間 体重52Kgの人の消費カロリーを求める】         

 1.05 × 2.5 × 1.0(時間) × 52(Kg) =136.5(Kcal)

※ただし、この数字は活動を行っている時間に消費したカロリー全体(安静状態のカロリーと活動によって増えた消費を合わせた数字)なので、活動によって消費したカロリーは1METs分(安静状態のカロリー消費)をひいた81.9Kcalである。   

 また、上述のEx(エクササイズ)とは身体活動の量を表す単位で

 身体活動の強【METs】 × 身体活動の実施時間【時】=メッツ・時

【例:3METsの通常歩行を1時間行う】

 3METs × 1時間= 3 Ex(エクササイズ)【メッツ・時】

【例:4METsの庭掃除を30分行う】

 4METs × 30分(0.5時間)= 2 Ex(エクササイズ)【メッツ・時】        

現在の職場に満足していますか?もし、新しい分野に挑戦したいとお考えならすぐに1歩踏み出すべきです!

おわりに

 今回はウォーキングについて書いてみました。「筋肉をつけるためにウォーキングしてます」は臨床で頻繁に患者さんから言われるワードです。実際このブログを書いている間にも何人かの患者さんから言われました。。。

 そこで、「ウォーキングで筋力はつくのか?」という疑問から今回の記事を書くことにしました。今回の記事ではすべての文献を網羅できたわけではないと思いますので反対の結果を支持する内容のものもあるのかもしれませんが、私の調べた範囲では「ウォーキングは心理面にどう影響するか?」みたいな内容が多く身体機能面にフォーカスしたもの自体が少なかったというのが印象です。

 当然ながら全てに良い運動運動はありませんので、今回調べた内容を基にウォーキングで改善が期待できるものと違う方法でアプローチしたほうが良いものを振り分けて今後の患者さんへの指導につなげたいと思います。

 今回の記事が皆様のお役にてましたら幸いです。

参考文献

1) 村田 伸ら:地域在住高齢者の身体・認知・心理機能に及ぼすウォーキング介入の判定効果 理学療法科学 2009,24巻4号 509-515

2)新井 智之ら:地域在住高齢者におけるウォーキングの実施率と運動機能との関連 理学療法科学 2011,26巻5号 655-659

3)冨岡 徹:ストックを使ったウォーキングの歴史と身体的効果の文献学的検討 名城論叢 13A30,2008

4)加藤 麻樹ら:歩行運動におけるウォーキングポール使用の効果に関する研究 長野県短期大学紀要 65 75-80,2010-12

5)宮下 充正:ウォーキングブック-科学に基づいたウォーキング指導と実践- Book House HD

6)泉 嗣彦:医師がすすめるウォーキング 集英社新書